公益財団法人 国家基本問題研究所
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今週の直言

荒木信子

【第1102回】拉致被害者救出のチャンスをつかめ

荒木信子 / 2024.01.09 (火)


国基研企画委員・韓国研究者 荒木信子

 

 国際秩序に大きな変化が起きつつある。
 ロシアの侵略によるウクライナ戦争勃発から来月で2年になるが、欧米の支援が先細り、ウクライナには厳しい情勢だ。昨年10月にはパレスチナ自治区ガザを支配するイスラム主義組織ハマスのテロをきっかけに、イスラエルによるガザ攻撃が始まった。
 もしウクライナ戦争でロシアが「勝利」を収めれば、ロシアを支えてきた同じ独裁主義国家の中国、イラン、北朝鮮は勢いづくだろう。この4か国のうちイランを除く三つは日本の隣国である。日本人はそうした地域で暮らしているのだが、その割にのんびりしているように見える。

 ●朝鮮半島に関心を向けよう
 安全保障上のさまざまな準備が日本に不足していることはすでに多くの人が指摘しているが、国際情勢の変化に応じてそれを改めていくことが日本にとっては喫緊の課題である。
 特に日本人は朝鮮半島に注意と関心を向ける必要がある。北朝鮮の金正恩朝鮮労働党総書記は、12月30日まで開かれた党中央委員会拡大総会で、「北南(北朝鮮と韓国)関係はもはや同族関係ではない敵対的な二国関係、戦争中である交戦国関係として完全に固定された」と述べた。
 同族関係つまり、同じ民族同士であることの否定は、日本の敗戦後に分断された祖国を統一するという建前を捨てることでもある。こうした発言を受けて韓国側は警戒を強めている。
 古来、朝鮮半島の軍事的緊張は日本にとって危機であった。加えて現在、北朝鮮に囚われている拉致被害者の救出という重大な問題を解けないままでいる(日本人以外の拉致被害者もいる)。ウクライナやガザの人々に思いを寄せるように、同胞たる拉致被害者に思いを寄せるべきだ。
 今年で横田めぐみさんの拉致から47年。めぐみさんと同じく失踪当時中学1年生だった寺越武志さんの拉致から61年になる。それ以前にも拉致の可能性が高い失踪者は多数いる。
 中学1年生だった人が孫を持つ年齢になるほどの歳月が経過した。その間に政府による何らかの努力があったとしても、2002年に帰国した蓮池薫さんら5人以外は帰国できていない。その間に当事者や家族は老い、失意のうちにこの世を去った方も少なくない。

 ●激動を利用して対策と備えを
 拉致問題は久しく動きがなかったが、昨今の国際関係の変動を逆手にとって救出に繋げるという発想があってよい。チャンスは通り過ぎてからではつかめない。混沌とした今の国際情勢の中で様々な想定をして可能性を探り実現に結びつけたい。今後どのような事態が起きるか分からないからこそ、官民挙げて事前の準備が必要である。こうした取り組みは日本が直面する様々な課題解決にもつながると考える。
 今、能登半島地震の被災地では自衛隊、警察、消防はじめ大勢の人々が懸命に救出・支援活動にあたっている。それと同じである。日の丸を背負った日本人自身が日本人拉致被害者を直接保護し、日本に連れ帰って来る、そういう姿を見たい。(了)
 
 

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まず能登半島地震被災者にお見舞い申し上げます。沢山の心配事がある中で、特に朝鮮半島の日本人拉致被害者に心を砕いています。政府は有事の際に邦人を救出する方策を真剣に検討していただきたいと思います。