原子力規制委員会は昨年12月27日、東京電力柏崎刈羽原子力発電所(新潟県)に出していた事実上の運転禁止命令の解除を決定し、東京電力に通知した。テロ対策について「自律的な改善が見込める」と判断した。同原発が再稼働すれば、首都圏の電力の需給逼迫状況が改善されるが、実際の運転再開には新潟県など地元自治体の同意が必要で、その時期は見通せない。
●運転停止の発端はテロ対策不備
同原発6号機、7号機は2017年12月に新規制基準に基づく安全審査に合格した。しかし、その後の審査で、地盤の液状化対策などが追加で必要とされ、関連工事の遅延と発電所所員の士気の低下が見られた。また、①敷地境界のフェンスを乗り越える侵入者の検知機の故障が放置されていた②所員が他人のIDカードを使って中央制御室へ不正入室した―などテロ対策の不備が発覚した。
②のIDカード不正使用は論外であるが、①の検知機故障については、規制委の更田豊志委員長(当時)が規制委も検査していなかったことを認めている。国際原子力機関(IAEA)の総合規制評価サービス(IRRS)も、規制委と東電の間で対等なコミュニケーションが取れていないことを指摘しており、①については規制委にも半分の責任がある。
●米国並みの監視制度導入を
筆者は昨年12月上旬に日本機械学会の欧米視察団に参加し、1月2日から5日まで、IAEAと経済協力開発機構・原子力機関(OECD/NEA)が共同運営する職業被ばく情報システム(ISOE)の北米シンポジウムに出席した。ISOEは全世界の原発の事故情報と被ばくを管理している。
米国では原子力規制委員会(NRC)の原子炉監督制度(ROP)が成果を上げている。ROPの根幹は、NRCが電力会社にきめ細かな指導を行うことである。発電所内を視察したが、エスコート役に加え、機関銃を携行したガードマンが常に付き添う。発電所内には、侵入したテロリストを射殺できるように、銃眼を持つ監視塔が何本も建っている。四つ足歩行の犬型ロボットや球形のかごで保護されたドローンが発電所内の異常の有無を常に点検している。発電所の床は、放射性の塵の付着を防ぐため、歩行者の顔が映るほどピカピカに磨かれている。
筆者は柏崎刈羽原発の運転禁止命令で、こうした米国並みのROPの導入が遅れたと思っている。2023年1月に政府は原発など重要インフラの防護に自衛隊を活用することを決め、ミサイル迎撃態勢を整えることを決定している。再稼働へ向けて地元自治体の同意が焦点となるが、原子炉の状態監視保全制度を米国並みに改善し、再稼働を急ぐ必要がある。
1月1日に能登半島を中心とする強い地震があったが、柏崎刈羽原発や北陸電力志賀原発(石川県)への影響は軽微であった。岩盤の上に建設されている堅牢な原子炉建屋や新規制基準に基づく安全対策が貢献している。そのことをISOEのプレゼンテーションで報告した。(了)