公益財団法人 国家基本問題研究所
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今週の直言

本田悦朗

【第1116回】金融緩和の解除はまだ早い

本田悦朗 / 2024.02.05 (月)


国基研企画委員・元内閣官房参与 本田悦朗

 

 日本銀行は、長く我が国経済を停滞させてきたデフレから完全に脱却するため、粘り強く金融緩和を継続している。その枠組みは、日銀当座預金の金利や長期国債の買い入れ量を調節することによって短期の政策金利と長期金利を操作し、イールドカーブ(縦軸に利回り、横軸に残存期間を取って描いた利回り曲線)に下押し圧力を維持したまま、滑らかな右肩上がりとなるようにコントロールしている。その際、短期の政策金利をマイナス0.1%とし、長期金利はゼロを原則としつつも、運用としてはプラス1.0%を「目途めど」として、特に上限を設けていない。
 長期金利の目途は段階的に引き上げられてきたが、これは「利上げ」を目的にしたものではなく、将来の物価上昇が予想されるにつれ、利回りが自然に上昇してくるので、イールドカーブを現実に適合するよう「柔軟化」したものである。2月3日現在、長期金利は0.65%だが、目途の1%までには余裕があり、「政策枠組みを維持しつつ金融緩和を継続する」という使命を果している。

 ●強まる利上げ圧力
 コロナ禍の鎮静化や、ロシアのウクライナ侵略など地政学的な原因により諸外国の物価が急上昇し、それに対応するために各国が大幅に利上げする中で、日銀だけが金融緩和を継続しているため、円安が進んでいる。為替レートは基本的に金利差に対する予想で決まるので、円安傾向が続いているのだが、これによって日本では、食料品やエネルギー、その他原材料の輸入価格が上昇し、これらの物価が上昇している。
 このインフレは、輸入価格上昇を起点とするコストプッシュ型のもので、本来、長期に継続しないのだが、食料品などは生活必需品なので、価格が上昇しても購入せざるを得ない。したがって、円安等による物価上昇は、国民生活を直撃する。「我が国も金融政策を正常化して金利を引き上げ、円安を是正すべきだ」という意見がメディアを中心に有力になっている所以ゆえんである。

 ●当面の物価対策は財政措置で
 我が国では、潜在的な供給力に比べ需要が不足するデフレギャップが継続しており、「失われた30年」と呼ばれる長期停滞から脱却できていない。このような時にマイナス金利政策を解除し、イールドカーブ・コントロールという金融緩和の枠組みを放棄したらどうなるだろうか。住宅ローンの変動金利は上昇するだろう。また、ようやく企業では賃上げの機運が出てきている中で、期待された賃上げは起こらず、2%の物価安定目標は達成できないだろう。
 現実に即した政策、即ち現状では金融緩和の継続こそが「正常」なのであり、円高誘導のために利上げを行うことは為替政策や金融政策として誤りである。当面の物価対策は、食料品にかかる消費税を非課税にするなど財政的措置で行うべきである。(了)
 
 

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第514回 利上げを急ぐな

日本の経済政策の支柱は日銀の金融政策と財政政策。アベノミクスの第1の矢、日銀の金融政策はゼロ金利とYCC(長期金利誘導)。いまこのゼロ金利を解除するという報道あり。しかし、そうすると需要が不足している状態ではデフレ完全脱却はできない。適温経済を考えない金利アップは次期尚早です。財政も引き締めてはなりません。

田村秀男 国基研企画委員