国基研副理事長 田久保忠衛
日本国憲法を中心にした「戦後体制」は、国際環境の現実を前に音を立てて崩れつつあると思う。尖閣諸島沖における中国漁船による海上保安庁巡視船への衝突事件で、われわれは日本外交が何の役にも立たないことを思い知らされた。
ところが、中国と歩調を合わせるかのように、ロシアが爪と牙を剥き出しにしてきたのである。
北方領土周辺の軍備強化へ
前原誠司外相の2月10日のモスクワ訪問を狙い撃ちするかのように、ロシアは北方領土周辺の軍備強化を打ち出した。メドベージェフ大統領が、クリール諸島(日本の北方領土と千島列島)は「私たちの戦略的地域だ」と軍備強化を進める方針を明らかにした。
具体的には、ロシアがフランスから購入を予定している2万トン強のミストラル級強襲揚陸艦を太平洋艦隊に配備するというのである。産経新聞は2月10日、11日付と2日間にわたって1面トップにこのニュースを紹介した。ニュース感覚として優れていると思う。
日露外相会談は全く実りがない結果になった。驚いたことに外務省OBの某外交評論家はテレビに出て得々と、ロシアが態度を硬化したのは菅直人首相の暴言が理由だとの解説をしていた。
同首相は2月7日の北方領土の日に行われた集会で演説し、昨年11月1日にメドベージェフ大統領が国後島を訪問したのは「許し難い暴挙」だと述べたのである。「許し難い暴挙」という表現は外交的にまずいとのもっともらしい解説は、ロシア側にぴったり沿った発言で、ロシアが国家として示している軍事力を背景とした砲艦外交には一言も触れていない。
答えは憲法改正のみ
重箱の隅をつつくようなコメントはやめてほしい。ロシアは昨年6月から7月にかけて択捉島を含む極東、シベリア全域で「ボストーク2010」と称する大規模な軍事演習を実施し、日本が第2次大戦の降伏文書に署名した9月2日を対日戦勝記念日に決めた。北方四島の不法占拠を正当化する歴史の捏造を公然と行った。
以後、シュワロフ第一副首相、バザルギン地域発展相、セルジュコフ国防相らが続々と北方領土を訪問し、実効支配を固定化しつつあるではないか。菅首相としては異例だが、国民の正しい声を反映したのであって、「外交用語」を正しく使う、使わないの話ではない。
軍事力を背景にしたロシア外交に日本はどうするのか。戦後体制では何もできないことが明白になったのではないか。答えは憲法改正による自衛力の強化以外にない。中露の軍事力を背景にした外交の前に「平和憲法」は何の意味もない。(了)
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第76回:ロシアの砲艦外交に無力な日本(田久保忠衛)