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湯浅博

【第1126回】米のウクライナ早期追加支援を期待する

湯浅博 / 2024.03.11 (月)


国基研企画委員兼研究員 湯浅博

 

 バイデン米大統領が7日に行った一般教書演説は、自由と民主主義が「国内外の両方で同時に攻撃にさらされている」と警鐘を鳴らし、ウクライナ支援を力強く打ち出した。侵略国家ロシアの優位は、力で現状変更しようとする中国を勇気づけるから、ウクライナ支援は日本の国益とも合致する。バイデン氏が議会に呼び掛けたように、これ以上ロシアのプーチン大統領を喜ばせないためにも、17日のロシア大統領選挙前の支援法案成立を期待したい。

 ●バイデン氏が演説で議会に訴え
 一般教書演説は有権者の関心が高い経済対策から入るのが常道だが、今回バイデン氏は冒頭から、ウクライナ追加支援に消極的な下院共和党と世論を念頭に「連邦議会に目を覚まさせ、米国民に警告を発する」と攻撃的な姿勢で臨んだ。それは第2次大戦で独裁者ヒトラーの欧州支配を阻止するため、ルーズベルト大統領が1941年1月の一般教書演説で議会と国民に呼びかけたのをなぞっている。
 国内の危機では、2021年1月6日の連邦議会襲撃事件を取り上げ、南北戦争以降、「自由と民主主義が国内で今日ほど攻撃にさらされたことはない」と主張し、事件を招いたトランプ前大統領を非難した。今日の米国は、ルーズベルトとリンカーンという偉大な大統領が直面した苦難より、さらに危険な脅威に立ち向かっていると語っているようだ。
 バイデン氏が選挙演説スタイルの一般教書演説を行ったのは、81歳の高齢大統領に説得力ある演説ができるのかといぶかる声を意識したからだろう。トランプ氏を最後まで攻め立てることで、力強さを強調した。バイデン氏は特に、プーチン氏の侵略がウクライナで終わらず、広く欧州に拡大して自由世界は危険にさらされると訴えた。トランプ氏が国防費の少ない北大西洋条約機構(NATO)加盟国への侵攻をプーチン氏に促すような発言をしたことを非難し、「我々は立ち去らない」と宣言したことは、ロシアの戦意をくじくだろう。
 バイデン氏は、ウクライナが求めているのはロシアと戦うための軍事支援であって、米兵派遣ではないことを再確認した。ロシアの侵攻阻止に必要な支援額は米国防費の5~6%といわれ、米兵を1人も動員することなく目標を達成できると指摘されている。しかも、中国のような他の潜在的な侵略国への抑止効果があり、はるかに低コストの選択肢である。

 ●日本も間接的軍事支援拡大を
 日本政府が決定した国家安全保障戦略もまた、ロシアのウクライナ侵略で国際秩序が破られ、同様の事態が「インド太平洋地域、とりわけ東アジアにおいて発生する可能性は排除されない」と警戒感を示している。岸田文雄首相の言う「今日のウクライナは明日の東アジア」であるからだ。岸田政権は防衛装備移転3原則の運用で、ライセンス生産の地対空ミサイル「PAC2」を増産して対米輸出することを可能にした。ウクライナ支援で足りなくなった米軍の備蓄を補うから、日本の間接的な対ウクライナ支援となる。このような迂回うかい支援を弾薬などにも拡大したい。(了)