3月11日に閉幕する中国の全国人民代表大会(共産党主導の疑似国会)で、習近平政権は不動産バブル崩壊不況に対し、根拠に乏しい高経済成長見通し以外に有効な政策を示せなかったが、警戒すべきは別にある。経済衰退の焦燥が習氏を対外膨張路線へと駆り立てることだ。
●ウォール街に見放された
本欄1月22日付で論じた通り、中国の国内総生産(GDP)の水増し偽装は明白だ。全人代冒頭、李強首相が示した本年5%前後の実質経済成長目標に対し、米ウォール・ストリート・ジャーナルは7日付の評論記事で、「中国のGDP統計を信じてはいけない」と断じた。米金融界の対中経済観の反映である。
また、米ブルームバーグ電は、5日の全人代開幕直前のタイミングで、ゴールドマン・サックス(GS)資産運用部の最高投資責任者の「中国に投資すべきではない」「中国の政策は不透明で、経済データがまだら模様で、中国投資への懸念を高めている」との発言を流した。GSは長年、対中投資に血道を挙げてきた米ウォール街金融資本の代表格だが、ここに至ってとうとう見切った。
外資の脱中国は中国経済の苦境をさらに深刻化させかねない。中国の金融は外貨流入に依存しており、外部からの投融資が減ると、大胆な金融緩和策を取れないばかりか、積極財政のための国債発行にも限界が生じる。実際に全人代で習政権が示した国内向けの金融緩和と財政出動は昨年同様、小出しにとどまっている。
●自由で開かれた世界を侵食
中国経済が低迷を続ければ、習政権の対外膨張が弱まるとは限らない。実際は逆かもしれない。全人代で発表された今年の中国軍事費は前年比7.2%増で、高めの経済成長目標を大幅に上回る。経済・国防一体化の国家戦略を展開してきた習氏は軍事を最優先した。
すでにバブル崩壊不況の中で対外経済攻勢が加速している。ウクライナ戦争勃発前に比べ、2023年は中国の対ロシア輸出は1.8倍、北朝鮮向けは7.8倍に達した。両国を含む「一帯一路」圏に対する中国の傾斜は凄まじく、中国の貿易に占める一帯一路圏の割合は同年、それまでの30%前後から一挙に50%近くに増えた。経済協力の名の下の海外建設プロジェクト新規契約に占める一帯一路シェアはそれまでの50%台から86%に高まった。
同時並行で、中国は一帯一路の沿線国・地域への人民元決済普及を急いでいる。言わば人民元経済ブロックの建設だ。これらの国・地域を内需不振に伴って深刻化する巨大生産過剰のはけ口にすると同時に、政治、軍事の影響力を浸透させる戦略であり、自由で開かれた世界を侵食していく。(了)