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今週の直言

島田洋一

【第79回】人選を誤った民間初の中国大使

島田洋一 / 2011.03.07 (月)


国基研企画委員・福井県立大学教授 島田洋一

外相の突然の交替劇で、少なくとも一時、出先の大使の重要性は増すだろう。丹羽宇一郎氏(元伊藤忠商事社長)が駐中国大使に任命された直後、北朝鮮政策に関する発言を見て、危ういと思った。

「拉致問題の解決だけでなく、日本と北朝鮮との国交回復とか、最終的な目的はそういうところにあるだろうから、それに向けた努力は引き続き必要だ」(SankeiBiz、2010年7月23日)。

ここには何の理念も想像力もうかがえない。「中道実用」主義の李明博韓国大統領ですら、北の崩壊を見据えた「統一税」を唱える中、いまだ「北朝鮮との国交回復」を「最終的な目的」と見るような感覚で、日中関係の将来図が描けるはずもないだろう。

中国人に「ジャスミン革命」は無理?
丹羽氏は3月1日、自民党の外交部会に出席し、「今の生活を壊してまで政権を倒そうという情熱、意欲は、中国の国民にはない」「ジャスミン革命のようなことは中国では期待をされない方がいい」と分析したという。

随分中国国民を見くびった言い方だが、独裁政権を倒そうという情熱、意欲を少しでも見せればノーベル平和賞受賞者の劉暁波氏夫妻のごとく生活を壊されてしまう抑圧状況に怒りや疑問を感じない人物を大使に持つことは、日本にとって名誉ではない。

「(中国の軍拡は)大国としては当然といえば当然のことかもしれない」という丹羽氏の発言も物議を醸した(2010年7月26日)。岡田克也外相(当時)は、「それはいわば枕詞で、中国の軍事費の透明性の重要さということをその時言われている」と弁護したが、何より問題なのは、中国の覇権的膨張にただ手をこまねいている民主党政権の姿勢だ。

対中ODAと中国の歴史教科書
国内総生産(GDP)で中国が日本を抜いた事実に照らしても、また、「(相手国の)軍事支出、大量破壊兵器・ミサイルの開発・製造、武器の輸出入などの動向」や「民主化の促進、……基本的人権及び自由の保障状況」に「十分注意を払う」とした日本政府の政府開発援助(ODA)大綱に照らしても、対中経済援助は全廃せねばならない。が、ここでも丹羽氏は現状変更に最も消極的な関係者の一人とされる。

丹羽氏はまた、「中国の歴史教科書を読むと、まずいなと思う。現代史の部分は戦争のことでいろんなことが書いてある。嫌日になってはいけない」と一見まっとうな認識を示しつつ、中国当局の歴史歪曲をただすのではなく、「中国各地を歩き、講演を引き受けて、日本にはいい人間が多いということをぜひ広めたい」といった少女的発想で満足している。

最も危ういのは、もちろん、この人事を「民間出身の大使がこれから定着していくかどうかの試金石」(岡田外相)と位置づけた民主党幹部の無定見だ。(了)

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第79回:人選を誤った民間初の中国大使(島田洋一)