公益財団法人 国家基本問題研究所
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今週の直言

田久保忠衛

【第78回】中国でジャスミンの花は開くか

田久保忠衛 / 2011.02.28 (月)


国基研副理事長 田久保忠衛

2月28日付の朝刊各紙は、前日に中国で行われた民主化を求める「中国ジャスミン革命」が封じ込められたと報じた。詳報は新聞に任せるが、2週間前に呼び掛けられた前回20日の集会に比べてはっきりしているのは、①20日の13都市が27日は27都市に拡大した ②当局による事前の取り締まりがますます強化されている―の2点だろう。

3月5日に全国人民代表大会(全人代)を控えているから、民主活動家への監視やネット規制が強まっているのだ、といった表面的な解釈はどうでもいい。

香港民主派が本土にエール
事の発端は、チュニジアの野菜売りの1青年が警官にとがめられたのに抗議して焼身自殺を図ったことだった。アフリカ北部、中東にかけて、燎原りょうげんの火のように燃え広がった騒動の速度と規模は刮目かつもくに値する。

チュニジアの代表的な花にちなんで命名された「ジャスミン革命」は美しい造語であって、民主主義がこれらの国々に定着するなどと楽観できるわけはないし、地域の動乱はこれからも続くだろう。が、バーレーンの面積の千倍、人口の千二百倍を持つ中国に「中国ジャスミン革命」は起こらないと断定するわけにもいかないだろう。

27日に、香港では最大の民主派団体「香港市民愛国民主運動支援連合会」(支連会)や民主党などが、1月に死去した支連会初代主席、司徒華氏を追悼する大規模なキャンドル集会を開いた。主催者発表で約8000人というこの大集会は、ジャスミンの花を題材にした歌を合唱し、本土の「中国ジャスミン革命」集会にエールを送った。

支連会の主席に就任した李卓人氏はあいさつの中で「本土でジャスミンの花が開くように望む」と述べ、盛大な拍手が起こった。この事実は何を意味するだろうか。

高まる人民の不満
「ジャスミンの花開く」(茉莉花開)は中国江蘇地方の民謡だ。江蘇省の揚州は江沢民前国家主席の出身地であるところから、同前主席はこの歌を愛唱している。1997年に香港が英国から返還された時も式典で演奏され、胡錦濤主席がアフリカを訪れた時に口ずさんだ映像も中国内で出回っているという。

2006年のトリノ冬季五輪、女子フィギュアスケートで金メダルを取った荒川静香が使った曲、プッチーニのオペラ「トゥーランドット」にもこの歌の一節が用いられている。

中国の民主化運動がこのまま鎮圧されてしまうとは考えられない。中国政府が政治と経済の両面で人民の不満を解消できるかどうかの劇的な場面は果たして到来するか。ジャスミンの花は開くとすれば、いつになるのだろうか。(了)

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第78回:中国でジャスミンの花は開くか(田久保忠衛)