米大統領選挙はトランプ氏対ハリス氏の構図になる見込みで、その行方に世界が注目する。ハリス氏の政策は基本的にはバイデン政権を引き継ぐだろう。問題はトランプ政権復活の場合だ。経済面を見てみよう。
7月18日の共和党大会でトランプ氏は大統領候補指名受諾演説を行った。経済政策は、①インフレ危機の終結②金利の引き下げ③大規模減税④関税引き上げ(一律10%、対中国60%以上)―と、大方の予想通りの内容だ。
こうした政策は選挙対策としての色彩が濃いので、これだけで論じるのは表面的過ぎる。そこで視点を広げて深掘りしよう。
●半導体など産業囲い込みへ
「米国第一」主義の経済面での特徴は、産業の「囲い込み」と保護主義だ。米国ではかつて政府が産業に介入する産業政策を否定していたが、中国の脅威に直面して大胆に政府の介入に舵を切っている。しかも保護主義的であって、同盟国との間で軋轢も生む。
キーパーソンの1人は対中強硬派と言われるバンス副大統領候補だ。バンス氏も重視するのが産業を国内に戻す産業政策だ。政権入りが有力視されている前通商代表のライトハイザー氏も要注意だ。同盟国も含めて10%の関税で脅して何を交渉で得ようとするのか。
標的は伝統的な政治銘柄である自動車産業だけではない。半導体も標的に浮上する可能性がある。トランプ氏は「台湾は半導体事業を米国から奪った」と主張する。防衛負担に絡めて圧力をかけて、生産工場も米国に持って来させる可能性も指摘されている。日本も他人事ではない。日本の強みである半導体材料・装置のメーカーも米国への工場進出を求められる可能性もある。日米連携は大事だが、米国による産業囲い込みによって日本の産業空洞化を招かないようにすべきだ。
●エネルギー政策は180度転換
エネルギー政策では化石燃料の採掘を推進する。環境派の影響力が大きいバイデン政権から180度の方向転換となる。民主党、共和党の基本スタンスの違いによるものだけに問題は根深い。将来民主党政権になると、また「手のひら返し」が起こるだろう。
日本がそのたびに振り回されていてはいけない。「脆弱なエネルギー安全保障をどう確保するか」という政策の軸をぶれさせてはいけない。
●国際連携は風前の灯
これまで積み上げてきた国際連携の枠組みも危機に瀕する。
トランプ氏はかつて世界貿易機関(WTO)からの脱退も示唆したが、WTO の機能不全が決定的になりかねない。
バイデン政権が鳴り物入りで立ち上げたインド太平洋経済枠組み(IPEF)からも脱退する可能性が高い。かつて米国が脱退した環太平洋パートナーシップ協定(TPP)と同様、日本が主導してアジアの国々をつなぎ留める必要がある。
トランプ政権の復活可能性をさらに深刻にとらえているのが欧州だ。安全保障問題はもちろんだが、経済においても米国からの「戦略的自立」を加速するだろう。ここでも日本が接着剤としての役割を果たすことが重要だ。(了)