公益財団法人 国家基本問題研究所
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今週の直言

奈良林直

【第1165回】原発の新規制基準を改定せよ

奈良林直 / 2024.07.29 (月)


国基研理事・東京工業大学特任教授 奈良林直

 

 日本原子力発電が再稼働を目指している福井県の敦賀原発2号機に関し、原子力規制庁は26日の審査会合で、原子炉建屋近くの「K断層」が将来動く可能性があるかという「活動性」と、建屋真下の「D1断層」がK断層とつながっているかの「連続性」の二つについて、原電の主張が曖昧で、科学的根拠に乏しく、2号機が原発の新規制基準に適合しているとは認められないと結論付けた。
 これに対し原電は、曖昧と指摘された点を追加調査によって明確にし、原子炉施設を新規制基準に適合させるための設置変更許可申請書の一部補正(補正書と呼ぶ)の修正も含めて検討したいと提案し、次回の原子力規制委員会に諮られることになった。原電の提案が却下されれば、2号機の再稼働は不可能となる。

 ●工学的な安全対策でリスクは下がる
 筆者は審査会合の直後、NHKの取材に対し、「結論を急いでいることが明白な審査会合で、原電と規制側の主張がかみ合わない部分が多かった。規制委は原発を廃炉にするために審査するのではない。拙速に議論するのではなく、互いが納得できる議論を重ねるべきだ」と述べ、原電による追加調査も含め審査を継続すべきだと指摘した。
 また、焦点のD1断層については、「地震を引き起こす『震源断層』は別だが、引きずられて動くひびのような断層については、工学的な安全対策の有効性を解析評価できる。そうしたサイエンスに基づいて審査を進める仕組みに変えるべきだ」と主張した。
 筆者はかつて、日本原子力学会の「断層の活動性と工学的リスク評価」と題する調査専門委員会で報告書を取りまとめ、たとえ原子炉建屋の真下の活断層が動いても、工学的な安全対策により、大事故に至るリスクが1万分の1になることを示した。
 その工学的な安全対策の参考になったのは、国内にある約2000本の活断層を横切って鉄道を走らせているJRの高度の活断層対策である。新幹線の新神戸駅地下の3層から成る複雑な活断層の現地調査をすることにより、新幹線の供用期間(想定使用期間)中における活断層の変位(ずれの大きさ)は最大でも5センチと評価して対策を取った。その後発生した阪神淡路大震災では変位が2センチで収まり、鉄道の被害は軽微であった。

 ●敦賀2号機廃炉なら影響大
 現在の原発再稼働審査は2013年の新規制基準に沿って行われている。地震は耐震補強工事で対策し、津波は防潮堤を築いて安全性を高めている。活断層の審査だけが、工学的な安全対策の議論をせず、活断層の有無しか議論しない。これでは審査に10年かけても安全性は高まらない。
 敦賀2号機が廃炉になれば後続の原発審査にも影響し、福井県のみならず、電力需給ひっ迫による大停電のリスクが各地で高まる。大停電が起これば、原発の外部電源は喪失し、大事故につながりかねない。病院の電気も失われるなど国民生活に重大な影響が及ぶ。規制委は、そのような事態も視野に入れる必要がある。断層に対する工学的な安全対策を取り、その有効性を審査するように新規制基準を改定すべきだ。(了)