自民党総裁選の日程が決まり、候補者の政策の輪郭が見えてきた。本稿では各候補者の掲げるマクロ経済政策に焦点を当て、その比較を試みる。財政・金融といったマクロ政策は、国家の経済基盤を決定する重要な柱であり、国民の経済活動に大きな影響を与えるものであるが、現時点で全貌が明らかになっているわけではない。そこで、主に財政政策に関し、立場を明らかにしている候補者について、筆者の知る限りで記すこととする。
●高市氏は安倍財政の継承者
高市早苗経済安全保障担当相は、自他共に認める故安倍晋三元首相の積極財政の継承者である。積極財政とは、例えば成長戦略として、革新的技術への支援のために財政支出をする場合、多額の財政赤字が既に累積しているからという理由で諦(あきら)めることはない、という基本的立場のことである。需要拡大はそれによる重要な結果であるが、それだけのために財政支出をするということではない。
これに対し、緊縮財政とは、財政均衡を目指し、プライマリーバランス(PB=国の経費は、国債に頼らず税収等で賄える状態)の一刻も早い実現を目指す立場のことである。この立場からは、PBの黒字化目標をカレンダーベースで定め(現行目標は2025年度)、経済状況にかかわらず、歳出削減に努める。
我が国は、1998年以降、慢性的な需要不足からデフレの状態にあった。従って、需要面からは、2%の物価安定目標を達成するまで、財政的制約はない。しかし、一般的な財政の持続可能性の条件は存在し、それは名目成長率(税収増)が国債の名目金利(国債の利払い)を基調として超えていることである。現在、我が国は、この条件も満たしている。
なお、最近の物価高に円安傾向が寄与しているのは確かであり、日銀が実体経済に留意しつつも、物価安定のために徐々に金利を上げつつあるのは理解できる。
●石破、河野氏はアベノミクス批判
小林鷹之前経済安全保障担当相は「経済は財政に優先する」との趣旨を述べている。現在は積極財政派に与(くみ)するとの趣旨であろう。それならば、「経済成長によって財政を健全化する」と言って欲しかった。ただ、小林氏が首相に就任した場合、この論理に従って経済政策の舵取りを継続できるのか不安も残る。というのは、小林氏は緊縮財政や利上げを主張する令和国民会議(通称「令和臨調」)に極めて近い団体に属しているからである。
小泉進次郎元環境相は、筆者の知る限り、マクロ政策についての発信がほとんどない。父である小泉純一郎元首相も、マクロ政策にはほとんど言及がなく、郵政民営化のような構造改革に熱心に取り組んだ。しかし、構造改革のようなサプライサイドの政策で、デフレを脱却することはできない。
石破茂元防衛相と河野太郎デジタル相は円高が日本経済にとって望ましいと考える「円高論者」であり、円安を是正するための利上げを提唱している。両氏ともアベノミクスに批判的で、経済政策の「正常化」を主張している。しかし、経済政策の評価は実体経済の状況によって決まる。(了)