2月7日の石破茂首相とトランプ米大統領の会談は「成功」と受け止める向きが多いが、甘すぎる。
●不条理な高関税の連発
トランプ氏は会談で、対米直接投資残高を1兆ドルに引き上げるとの石破首相の公約や、日本製鉄によるUSスチール買収問題の「買収ではなく投資」という妥協案にご満悦で、持論の高関税を持ち出さなかった。共同記者会見では「彼(石破氏)のようにハンサムならよかったが、私はそうではない」とリップサービスをした。石破氏は帰国後、「トランプさんは強権的、威圧的なイメージがあるが、実は違うのではないか」と述べている。
しかし、トランプ氏は10日、鉄鋼、アルミへの関税を一律25%へ引き上げることを決め、13日には貿易相手国の関税、非関税障壁に見合った「相互関税」を課す準備に入った。日本への関税賦課も視野に入れている。相互関税については、消費税を含めた日本の「非関税障壁」を問題視し、日本車も俎上に上る。日本の乗用車輸入は関税ゼロだが、米国の方は乗用車に2.5%、トラックに25%の輸入関税を課しているのに、である。
●米に貢献した日本の投資
経済を中心に「MAGA」(米国を再び偉大にする)というスローガンを掲げて昨秋の大統領選で圧勝したトランプ氏にとって、従順な日本はいかにもくみしやすい。データを見ればよい。
2024年、日本の対米輸出21.3兆円に対し、日本企業による対米直接投資は33.4兆円にも上った。日米間の直接投資のバランスは日本が12兆円超過、これも対米貿易収支黒字8.6兆円を凌駕する。つまり、日本側は対米輸出で稼ぐカネをはるかに超える規模で対米投資を行っている。
このトレンドは、2017年発足の第1次トランプ政権時代から顕著である。対米投資は米国での雇用を創出し、経済成長をもたらす。日鉄もトヨタ自動車も、輸出ではなく投資で米経済に貢献する。トランプ氏は「みつぐ君」ぶりを発揮した石破首相を、歯の浮くようなお世辞でたたえたのだろう。
●必要な首相の強い意志
石破首相は首相就任時の国会所信表明演説で「海外投資も増えた一方で、国内投資と賃金は伸び悩んできた」と嘆じた。トランプ氏には対米投資増を約束しても、日本経済再生に懸ける気概を示さなかった。石破政権は高関税の適用除外を米国に働きかけようとしているが、交渉は厳しい。その前提になるのは、安全保障分野での日米協調はいいとして、経済だけは「日本第一」でいくという首相の意志ではないか。(了)