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織田邦男

【第1331回】ベネズエラ攻撃は台湾侵攻のハードル下げた

織田邦男 / 2026.01.13 (火)


国基研企画委員・麗澤大学特別教授  織田邦男

 

 米国は1月3日、ベネズエラに対する軍事攻撃を実施し、マドゥロ大統領とその妻を拘束し、ニューヨークに連行した。トランプ政権は、ベネズエラの大統領選挙に不正があったとして、マドゥロ氏を大統領として認めていない。第1次トランプ政権では、当時のグアイド国会議長を暫定大統領として承認した。トランプ米大統領はマドゥロ氏が麻薬密輸に関与しているとして退陣を迫り、軍事介入を示唆するとともに、昨年9月からは麻薬運搬船に対する軍事攻撃を命じていた。

 ●完璧に成功した米軍の奇襲
 今回の軍事攻撃は、国際法上の正当性に疑義はあるようだが、マドゥロ氏を犯罪者として米国で裁くための「斬首作戦」(敵のリーダーを拘束する作戦)としては、完璧な成功を収めた。
 3日未明、近傍の20基地から約150機の米軍作戦機が奇襲攻撃を実施し、制空権を確保した上で、特殊作戦部隊デルタフォースをヘリコプターで突入させた。マドゥロ夫妻を拘束し、沖合の強襲揚陸艦に移送して作戦は終了した。作戦目的はマドゥロ氏の身柄を無傷で確保することであり、米軍は目的達成後、直ちに撤収した。米側に死者はなく、陸海空軍と情報機関による完璧な統合作戦であった。
 報道によると、現場を忠実に模した訓練場を作り、予行演習を繰り返したという。事前の情報漏洩もなく奇襲を成功させ、暗夜にもかかわらず友軍による同士打ちもなく、見事な斬首作戦だった。

 ●中国の頼総統拘束作戦にお墨付き?
 米軍の実力を見せつけられた中国は、台湾侵攻がやりづらくなったという声を聞く。だが、筆者はむしろ、ベネズエラ軍事攻撃は台湾侵攻のハードルを下げたとみている。
 今回の作戦は、比較的小規模であり、かつ米本土に近いところで実施された。台湾は米本土から遠く、有事の際は大規模な兵力の移動が必要となる。中国に地の利があり、中国が奇襲を実施すれば米国の対応は難しい。
 中国による頼清徳台湾総統の斬首作戦は、既に計画が進んでいる。内モンゴル自治区に台湾総統府を模した建物を作り、作戦の予行演習を実施していることが衛星写真で明らかになっている。
 トランプ政権のマドゥロ氏斬首作戦は、頼氏に対する中国の同様な作戦にお墨付きを与えたのではないか。ましてや頼氏の斬首作戦の場合、今回のような他国内での作戦とは異なり、中国が自国の一部と主張する台湾における法執行であり、実行に移されれば、トランプ政権が異論を挟むのは難しい。
 頼氏を拘束後、「頼清徳は米国に亡命した」と偽情報を流せば、台湾は総崩れになる可能性もある。これこそ中国が狙っている認知戦である。今回の軍事作戦が台湾侵攻のハードルを下げたとみて警戒を強化すべきであろう。(了)