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江崎道朗

【第1332回】ベネズエラの民主主義回復が日本の立場

江崎道朗 / 2026.01.13 (火)


国基研企画委員・麗澤大学特任教授 江崎道朗

 

 米国によるマドゥロ大統領の身柄拘束事件をどのように見るべきか。国連憲章、国際法違反だとか、力による現状変更を容認すべきではないとの声も聞く。
 ここで確認すべきは、なぜトランプ政権は、マドゥロ大統領を拘束したのかということだ。

 ●トランプ政権の論理
 ベネズエラでは、2013年に発足したマドゥロ政権の下での統制的な経済政策(価格統制、為替統制、企業・農地接収など)が投資を萎縮させ、生産を大きく縮小させ、ハイパーインフレ、長期のマイナス成長、医薬品・食料の慢性的不足が発生し、数百万人規模の国民が国外へ流出していた。だが政権側は「不正選挙」で権力を維持する一方で、反政府デモに対する過度の武力行使、恣意的拘束、拷問や不当拘禁疑惑など治安部隊による人権侵害を繰り返してきた。しかもマドゥロ大統領らは、米国によりテロ組織に指定された勢力と組んで大量のコカインを米国などに流入させ、かつ外国勢力(中国やロシア、キューバなど)と結びつき、米国の安全保障を脅かしていた。
 そこでトランプ政権としては、大量の難民発生、麻薬やテロ組織の暗躍、敵対国による軍事的脅威などに対応すべく、マドゥロ氏個人を拘束し、ベネズエラの経済再建と民主化を支援するとしているわけだ。ベネズエラを侵略、不法占拠しようとしたわけではない。

 ●熟慮した首相発言
 この一連の経緯を踏まえて高市早苗首相は4日、以下のようなコメントを公表している。
 「ベネズエラ情勢については、日本政府として、これまでも、一刻も早くベネズエラにおける民主主義が回復されることの重要性を訴えてきました。我が国は、従来から、自由、民主主義、法の支配といった基本的価値や原則を尊重してきました。日本政府は、こうした一貫した我が国の立場に基づき、G7(主要7カ国)や地域諸国を含む関係国と緊密に連携しつつ、引き続き邦人保護に万全を期するとともに、ベネズエラにおける民主主義の回復及び情勢の安定化に向けた外交努力を進めてまいります」
 要は「自由、民主主義、法の支配といった基本的価値や原則を尊重」する我が国としては「これまでも、一刻も早くベネズエラにおける民主主義が回復されることの重要性を訴えて」きたわけで、この事件を機に「ベネズエラにおける民主主義の回復及び情勢の安定化」に向けて努力する、と主張したわけだ。確かに軍隊を送り込んでマドゥロ氏を拘束したのはやりすぎだが、だからといって「自由、民主主義、法の支配といった基本的価値や原則」を損なう政治指導者の横行を容認する、または正当化するわけにはいかないというのが日本の立場なのだ。
 第2次安倍晋三政権が2013年に初めて策定した国家安全保障戦略でも、自由、民主主義、基本的人権、法の支配といった普遍的価値を維持・擁護しつつ、国民の命と日本の領土、主権、繁栄を守ることを国家安全保障の目的だとしている。「法の支配に基づく自由で開かれた国際秩序を強化」する積極的平和主義こそが我が国の立場であることを、今回を機に再確認したいものだ。(了)