公益財団法人 国家基本問題研究所
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今週の直言

岩田清文

【第1351回】核拡散阻止に貢献した対イラン攻撃

岩田清文 / 2026.03.09 (月)


国基研企画委員・元陸上幕僚長 岩田清文

 

 米国とイスラエルによるイランへの軍事攻撃は、中東情勢を一気に緊張状態へ押し上げた。武力行使の是非については国際法上慎重な検討が必要であり、日本が安易に軍事力による解決を追認すべきでないことは言うまでもない。しかし、今回の事態は単なる国際法上の妥当性だけではなく、核不拡散体制を守る観点からも冷静に評価する必要がある。唯一の被爆国・日本の立場からすれば、今回の攻撃を、核拡散を食い止める「苦渋の防波堤」と捉える視点も必要ではないか。

 ●「苦渋の防波堤」三つの視点
 第一の視点は、中東における「核のドミノ現象」の阻止である。日本が長年支えてきた核拡散防止条約(NPT)体制は大きな試練に直面している。イランは兵器級に近い濃度60%の高濃縮ウランの備蓄を進めており、核兵器開発への懸念は国際社会で共有されてきた。もしイランの核武装が既成事実となれば、サウジアラビアやトルコなど周辺諸国が核開発に踏み切る可能性が高まる。この連鎖が始まれば、NPT体制が深刻な打撃を受ける。今回の攻撃は一国を標的としたものではなく、地域全体の核武装化阻止という視点から理解すべきだろう。
 第二に、外交による解決の余地を残すという意味での「時間の確保」である。核兵器は一度完成すれば、国家にとって最強の外交カードとなる。北朝鮮の例が示す通り、核保有後の非核化交渉は極めて困難になる。イランが国際社会の懸念を無視して高濃縮ウランの備蓄を続けた事実は重い。物理的な打撃によって開発の進展を遅らせることは、イランを再び対話のテーブルに着かせ、外交的圧力によって核武装断念を迫るための「最後の猶予」を作り出す意味を持つ。
 第三に、核兵器を「持たせない」ことが将来の核使用リスクを最小化するとの現実的な視点だ。核保有国が増えるほど、偶発的な事故や誤認、あるいは極端な政治指導者による核使用の危険性は飛躍的に高まる。特にテロ支援国家による核保有は断固として阻止せねばならない。「核武装には耐え難い代償が伴う」という強い抑止メッセージは、将来の惨劇を未然に防ぐ防護策となり得る。

 ●核廃絶の理想と現実
 フランスのエマニュエル・マクロン大統領は3月2日、「核弾頭の保有数を増加させる」と明言した。核保有国のフランスでさえ核抑止力の強化を余儀なくされているのが現実である。日本にとって核廃絶は理想であり、廃絶に向けたリーダーシップを放棄してはならない。しかし、中国、北朝鮮の核の脅威が増大する現実に目をつぶることもまた許されない。今回のイラン攻撃が示す米国の「非核化への強硬な意志」を、日本は単なる傍観者としてではなく、核抑止力強化の必要性を迫る警鐘として受け止めるべきだ。(了)