公益財団法人 国家基本問題研究所
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今週の直言

【第176回】 妥当だった首相の危機管理

佐々淳行 / 2013.01.21 (月)


初代内閣安全保障室長 佐々淳行

 

 平成25年(2013年)の干支(えと)は「巳」(蛇)である。故安岡正篤氏の干支占いによると、天下大乱の年である。
 20世紀を12年ごとに振り返ってみると、不気味にもこの占いが当たっていることは歴史が証明している。1905年=日露戦争(2年目)、1917年=ロシア革命、1929年=世界大恐慌、1941年=独ソ開戦、ゾルゲ事件、太平洋戦争開始、1953年=(ちょっと小さいが)バカヤロー解散、朝鮮休戦、1965年=米軍の北爆開始、中国文化大革命の序幕、1977年=ダッカ日航機ハイジャック事件、1989年=昭和天皇崩御、ベルリンの壁崩壊、天安門事件、そして21世紀最初の巳年である2001年は9・11同時多発テロ。

●「大乱の巳年」にアルジェリア人質事件
 新年早々の講演会で「今年は巳年。多分、尖閣諸島の日中衝突がある。心して危機管理体制で臨め」と警告していたら、アルジェリア南東部イナメナスの天然ガス関連施設でプラント建設会社・日揮の日本人従業員17人が米英仏など外国人多数と共に人質とされる事件が起きた。
 2004年のバグダッド陥落1周年に、不心得な日本のNGO(非政府組織)関係者ら3人が周囲の反対を押し切ってバグダッド入りし、イスラム・ゲリラに捕らわれ、自衛隊をイラクから撤退しなければ人質を殺すと脅されたいわゆるバグダッド人質事件以来、9年ぶりの海外での複数の日本人人質事件となった。
 今回の人質事件では、各国からの人命尊重の要請もどこ吹く風のアルジェリア政府軍による作戦強行で、9人の日本人死亡が伝えられるという、めったにない重大な事態が占いの卦通りに発生してしまった。

●生かされた9年前の進言
 危機管理を政権の三大目標の一つに掲げた安倍晋三首相は、折しもベトナム、タイ、インドネシアの東南アジア3カ国を初訪問中で、日本に不在。私はバンコクでの安倍首相の記者会見をテレビで固唾をのんで見守った。流れてきたメッセージを聞き、私は、してやったりと膝をたたいた。
 基本的には、9年前に私が当時の小泉純一郎首相、福田康夫官房長官、安倍晋三官房副長官に進言した4項目を踏まえた国家危機管理コメントだった。
 バグダッド事件における政府の対応のポイントは、①イラク難民を助けようとするNGO関係者を人質に取ることは許し難く、直ちに人質の解放を要求する②自衛隊は弾を1発も撃っておらす、老幼婦女子を虐殺しているとの非難は当たらないので、撤退要求は拒否する③人質3人の行動は「自己責任」を問うことを原則とする④人命尊重の見地から、人質は米軍の協力を得ても必ず救出する―であった。
 発表者は福田官房長官だったが、仕切ったのは安倍副長官である。イラクのテロリストは困って人質を解放し、「自己責任」は流行語となった。知る人ぞ知るだが、安倍首相はこういう修羅場をくぐっているのだ。(了)