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髙橋史朗

【第478回・特別版】慰安婦登録見送りは官民一体の努力の成果だ

髙橋史朗 / 2017.10.30 (月)


国基研理事・明星大学特別教授 髙橋史朗

 

 パリで開催された国連教育科学文化機関(ユネスコ)の国際諮問委員会(IAC)が、日中韓を含む8カ国の民間団体などによって共同申請された慰安婦資料の「世界の記憶」登録を見送ったことが分かった。最終的にはユネスコのボコバ事務局長がIACの勧告を受けて登録の是非について判断することになる。IACの決定は、10月18日にユネスコ執行委員会が「世界の記憶」事業に関連する政治的緊張の回避を事務局長、IAC委員らに求める決議を全会一致で採択したのを受けたものなので、事務局長の独断で決定を覆すことはできないと思われる。

 ●日本が主導した制度改革
 IACの決定は、日本が主導した「世界の記憶」の制度改革の所産といえる。IACが下部機関の登録小委員会の勧告を鵜呑みにして「南京大虐殺」文書の登録を事務局長に勧告し、それが最終決定となった一昨年の過ちを繰り返さないために、IAC議長のイニシアチブの下で包括的な見直しが行われた。その結果、政治的濫用から「世界の記憶」事業を保護する枠組みが必要であるとの観点に立ち、疑義が呈された「政治的案件」については、関係者間で対話を継続すること等がユネスコ執行委員会で決定された。
 共同申請されたのと同じ米国立公文書館所蔵文書を含む「慰安婦と日本軍規律に関する記録」文書の登録をユネスコに申請した日本の保守系団体が、8月23日に共同申請側との対話を要請する公開状をユネスコに送った。また、10月19日には、共同申請された「日本軍『慰安婦』の声」資料の登録に反対する声明「日本の学者100名の声」がユネスコに送られ、IACに審査の見送りと対話の機会提供を要請した。
 今回のIACの決定は、制度改革の実現に向けて精力的な働き掛けを行った日本の外務省と、日本ユネスコ国内委員会、日本の民間団体・学者有志による官民一体の取り組みの画期的な成果といえよう。

 ●国連人権理の批判に反論せよ
 今後の課題としてはまず、ボコバ事務局長がユネスコ執行委員会の決議とIACの決定を覆すことがないように厳しく監視する必要がある。
 11月14日には、ジュネーブの国連人権理事会で日本の人権状況を審査する対日作業部会が開かれる。各国代表が発言する予定だが、審査の基礎資料は慰安婦制度を「性的奴隷の慣行」と記し、日本が法的責任を認め、実行者を訴追し処罰するよう求めている。このような不当な批判に対して日本政府は事実に踏み込んだ明確な反論をすべきである。
 また、2015年に「世界の記憶」に登録された「南京大虐殺」文書について、「記録遺産保護のための一般指針」の4.8「リストからの削除」規定に基づいて、異議申し立てを行うべきだ。(了)