公益財団法人 国家基本問題研究所
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今週の直言

太田文雄

【第483回】北の「ミサイル開発完結」は眉唾

太田文雄 / 2017.12.04 (月)


国基研企画委員 太田文雄

 

 11月29日、北朝鮮の国営報道は「米本土全域を攻撃できる新型の大陸間弾道ミサイル(ICBM)火星15号の発射実験に成功した」とし、「我々が目標としたミサイル兵器体系開発の完結段階に到達した」と報じた。しかし、今回の発射は通常より高く打ち上げるロフテッド軌道で行われており、通常軌道での発射実験はまだであることから「完結段階に到達」と結論づけるのは早い。トランプ米大統領の反応も「(北朝鮮への対応に)何の変化もない」であった。
 9月15日に別の弾道ミサイルを日本の頭越しに発射した時点では「(核戦力の完成目標の)終着点にほぼ到達した」(金正恩労働党委員長)としていた。今回、開発完結に「到達した」と宣言した背景には、米国に対して有利な交渉カードをとにかく早く入手したいという意図がうかがわれる。

 ●簡単でないICBMの大気圏再突入技術
 5月14日にロフテッド軌道で発射された中距離弾道ミサイル(IRBM)火星12号は大気圏再突入に成功したと報じられているが、7月28日に同じくロフテッド軌道で発射されたICBM火星14号は再突入に失敗したとの日米韓の分析結果が報じられた。今回の火星15号についても、12月2日のCNNテレビが「大気圏再突入時に分解したようだ」と報じ、再突入に失敗したとの見方を伝えた。
 発射された弾道ミサイルの分析には赤外線を追尾する米国の監視衛星情報を基盤として、イージス艦や航空自衛隊のレーダー等、複数の追尾データの相関を見なければならず、コンピューターを使用しても相当な時間を要するので、現時点で今回の火星15号の発射が成功したか否かを軽々に判断することはできない。
 IRBMの大気圏再突入速度は秒速約2キロであるのに対して、ICBMの場合は約7キロにも達するため、先が尖っている弾頭部は損耗して半球状になってしまうとされている。火星15号の弾頭部が再突入に耐えられたのかどうかは、今回の発射データを綿密に分析しないと分からないであろう。

 ●1年以内に米「核の傘」の信頼弱まる
 北海道上空を通過した火星12号の3回目の発射(9月15日)から2カ月余り北朝鮮が静かにしていたのは、挑発行動を抑制していたためではなかったことが今回の発射実験で証明された。12号や14号と、今回北朝鮮が公表した15号の画像を比較すれば、輸送起立発射機(TEL)、推進ロケット、弾頭部のいずれも相当大型になっていることが分かり、その開発に時間を要したに過ぎなかったのだ。
 ただICBMの開発はまだ完結していなくても、1年以内に完結する可能性が高い。その際、米国が我が国に提供している「核の傘」の信頼性が弱まることは免れない。その日に備えて、今から対策を立てる必要があることは言うまでもない。(了)