公益財団法人 国家基本問題研究所
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今週の直言

太田文雄

【第539回】日米同盟は盤石なのか

太田文雄 / 2018.09.03 (月)


国基研企画委員 太田文雄

 

 小野寺五典防衛相は8月28日の閣議で、平成30年版防衛白書を報告した。これまでの白書に比べ、分かりやすい見出しで最初に要約を持ってきているところは評価したい。一部の主要メディアは白書について、北朝鮮の脅威に変化なしとして地上配備型ミサイル迎撃システム「イージス・アショア」の導入を正当化する道具であるかのような扱い方をしているが、580ページに及ぶ白書の中でイージス・アショアについての解説は1ページのみであり、そんな単純な問題ではない。

 ●同盟国批判の矛先、いずれ日本に
 米国第一主義を掲げるトランプ大統領が、防衛費の対国内総生産(GDP)比が低いドイツに対して、またカナダ、オーストラリア、トルコといった他の伝統的な同盟国に対して厳しい態度を示していることは、白書に書かれていない。こうした事実は早晩、然るべき防衛負担を行っていない我が国に対する批判となってくることを予想させる重要な情報であるにも拘らず、白書には、日米同盟が盤石であるという記述ばかりが多い。
 折しも8月28日の米紙ワシントン・ポストは、トランプ大統領が6月の安倍晋三首相との会談で「真珠湾攻撃を忘れない」と発言して日本の経済政策を批判したと報じた。安倍首相は9月1日の産経新聞とのインタビューでこの報道を「全くの誤報」と否定した。一部メディアは大統領が真珠湾攻撃に言及したのは事実とした上で、かつて戦った「侍の国」にもう少し東アジアの安全保障に責任を持ってもらいたい、というのが発言の真意だったと伝えた。同盟国に対するトランプ大統領のこれまでの姿勢からは、ありそうなことである。

 ●中国は南シナ海から米本土狙う
 また防衛白書には、中国が開発中の原子力潜水艦搭載弾道ミサイルJL3についての記述が初めて登場した。従来の射程約8000km のJL2が南シナ海から米本土を射程に収められなかったのに対し、JL3は米本土を射程に収めることができる。中国が南シナ海に人工島群を建設してきた狙いの一つはJL3搭載原潜の聖域を作り出すことにあると思われ、米識者の多くもこの点を指摘している。しかし、白書は中国の海洋進出の目的五つの中に、なぜかそれを書いていない。
 もともと中国の軍事戦略は旧ソ連から学んだものが多く、「接近阻止・領域拒否」(A2/AD)戦略にしても、弾道ミサイル搭載潜水艦を聖域に遊よくさせる考え方にしても、旧ソ連海軍の発想に由来する。
 最後に宇宙・サイバーに関して一つの節を設けて記述しているところは評価したいが、インターネット通信に不可欠な海底の光ファイバーケーブルの安全確保に関する記述が海洋安全保障の項目に見当たらない。サイバーの領域も「専守防衛」は機能しないのである。昨年の白書発表の際も指摘したが、安全保障環境が厳しさを増しているにも拘らず、政策面は、専守防衛が日本の防衛の基本として定着した50年前から1ミリも動いていない。(了)