公益財団法人 国家基本問題研究所
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今週の直言

湯浅博

【第543回・特別版】ロシアが展開した帝国主義外交

湯浅博 / 2018.09.13 (木)


国基研企画委員・主任研究員 湯浅博

 

 帝国主義外交の典型は、大きな軍事力を振りかざしながら、にこやかに相手国を懐柔する狡猾こうかつさではなかったか。ロシアのプーチン大統領はまさに、「東方経済フォーラム」に参加した安倍晋三首相をソフトな声で迎えながら、その背後で中国との合同軍事演習「ボストーク2018」をぶつけてきた。中露関係の強さを合同演習で敵対国の米国に誇示しつつ、その同盟国である日本を包み込んで対米の牽制カードに使ったとしか思えない。
 経済フォーラムは11日から13日にロシア極東部のウラジオストクで開催され、中国との軍事演習は11日から15日に東部軍管区の極東地域で展開されていた。当然ながら、フォーラムに参加した安倍首相は、主催者であるロシアのプーチン大統領と、その疑似同盟国・中国の習近平国家主席とも、にこやかに首脳会談をすることになる。そこにプーチン、習両氏が日米離反を画策する腹黒さを感じないわけにはいかない。

 ●軍事力誇示しつつ日本を懐柔
 プーチン大統領は、安倍首相が北方四島の返還に道筋をつけたいのを逆手に取り、思わせぶりな言葉を連ねた。しかし、丁重な外交辞令とは逆に、その行動はむしろ、日本をないがしろにしていたとしか思えない。10日から北方領土の択捉島で予定されていた元島民の墓参を「調整がつかない」との理由で中止したうえで、中国人民解放軍との軍事演習を優先させた。軍を掌握しているプーチン大統領は、中国との合同演習のタイミングをあとにずらすこともできるのに、それをしなかった。日本への配慮はせいぜい、当初予定していたとみられる北方領土での軍事演習を、日本からの強い申し入れを受けて回避したことぐらいだ。
 日露首脳会談でプーチン大統領は、北方領土問題を「短期間で解決できると考えるのは稚拙だが、双方が受け入れ可能な解決策を模索する用意がある」と述べ、問題を先送りした。そのうえで、ロシア極東部における日本の投資を褒め上げた。四島での共同経済活動については、観光など5項目の行程表を日露で合意したという。それが北方領土の返還にどう結びつくというのか。経済フォーラムの全体会合で、突然に年内の平和条約締結を提唱したのも、その前提となる領土問題を無視することで日本側をかく乱した。

 ●対米牽制で中国と結束
 同じく東方経済フォーラムに参加した習主席の行動も似ている。中国は米国といさかいを起こすと、決まって日本に対しては穏健路線に切り替えてくる。ウラジオストクで習主席との首脳会談を終えた安倍首相は、「来月にも中国訪問を歓迎するとの発言が(習主席から)あった。私の訪中に向けて調整を進めていくことで一致した」と前向きにとらえていた。
 しかし、クリミア半島の強制併合で西側から経済制裁を受けるロシアも、米中貿易戦争のさなかに対日接近する中国も、日本から投資を引き出し、かつ対米牽制をしている。モスクワと北京は、反西側・反米路線ではたちまち結束する。(了)