米政府のアジア政策立案・遂行の要となる東アジア・太平洋担当国務次官補に、デービッド・スティルウェル退役空軍准将の起用が決まった。軍人出身の戦略専門家だから当然なのだが、スティルウェル氏は対中タカ派、同盟重視論者として定評があり、日本政府にとって政策調整をしやすい米側の実務責任者になるかもしれない。
●アジア通の次期国務次官補
スティルウェル氏の35年間の軍歴を見ると、アジアとの関係が極めて深いことが分かる。まず、空軍に韓国語訓練生として入隊。ハワイ大学でアジア研究と中国語の修士号を取った後、最初の海外任地はF16戦闘機パイロットとして韓国の群山基地へ。日本の三沢基地にも2度配属され、同基地に駐留する第35戦闘航空団の司令官を務めた。在北京米大使館の駐在武官も経験した。この間、空軍指揮幕僚大学と陸軍大学でそれぞれ「戦略研究」の修士号を取得した。現役最後のポストは米統合参謀本部のアジア政治軍事部副部長として、地域計画立案の責任を担うとともに、米太平洋軍(現インド太平洋軍)司令官や中央軍司令官を支え、統参議長や国防長官に助言を与えた。
2015年の退役後は、ハワイに本部を置く太平洋軍司令部の組織内で米中関係や中国の内外政策を研究する中国戦略フォーカスグループの長となり、ホノルルの政府系シンクタンク、東西センターの客員上席研究員も兼務した。中国語と韓国語に堪能で、日本語も多少話すという。
米国では、新政権発足から半年程度で政策の実務責任者である次官補クラスの任命が終わるのが普通で、今回のように1年半以上も空席だったのは異例。本来なら共和党政権に入るべき在野の専門家の多くが2016年の大統領選挙でトランプ氏への支持を拒絶したため、人材不足が露呈したこともあって、退役軍人が要職に多用されている。
●同盟重視の対中タカ派
スティルウェル氏が担当する米国のアジア外交は待ったなしだ。喫緊の課題の一つは、21世紀の覇権争いの様相を呈してきた米中関係の管理だ。米紙ワシントンポストのコラムニスト、ジョシュ・ロギン氏は、スティルウェル氏が中国との競争を戦略的にとらえる対中強硬論者で、同盟国の役割や台湾のユニークな立場をしっかり認識しているという専門家らの評価を紹介した。
もう一つの重要課題は、北朝鮮非核化への道筋づくりだ。7月に着任した米国のハリー・ハリス韓国大使は2015-2018年の太平洋軍司令官時代にスティルウェル氏の上司だった。気心知れた関係にあるこの2人のコンビが北朝鮮との関係改善に前のめりの韓国の文在寅政権を監視、けん制することを期待したい。(了)