公益財団法人 国家基本問題研究所
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今週の直言

西岡力

【第556回・特別版】外国人政策全体を見直せ

西岡力 / 2018.11.12 (月)


国基研企画委員兼研究員・麗澤大学客員教授 西岡力

 

 政府は深刻な労働力不足への対策として、外国人労働者の受け入れを拡大する政策転換をしようとしている。労働者の専門度に応じて「特定技能1号」「同2号」という在留資格を新設する出入国管理法改正案を国会に提出した。同改正案については、移民を事実上認めるのではないかなどという批判が与党自民党の中からも出ているが、改正案の危険性については他の論者に任せ、私は日本の外国人政策全体の欠陥を指摘したい。

 ●急増する在日外国人
 報道によると、政府は新たな在留資格により初年度は約4万人が日本に入ってくると予想している。一方、在日外国人総数はここ数年急増している。平成25年末に207万人だったのが、29年末には258万人となった。特に目立つのは、留学生12万人増(19万人→31万人)、技能実習生11万人増(16万人→27万人)、一般永住者9万人増(66万人→75万人)だ。今回の法改正は最長5年の技能実習を終えた者の受け皿という性格もある。
 問題は一般永住だ。期限なしで活動制限もない。その上、配偶者や子にも在留資格が付与される、外国人として最も恵まれた在留資格と言える。永住にはもう一つ、戦前、日本の統治下にあった朝鮮半島や台湾の出身者とその子孫に与えられている特別永住がある。朝鮮総連のような破壊活動防止法の監視対象になる団体が活動できるのも、一般永住と同じく活動制限がないお陰だ。特別永住者は日本への同化が進み、帰化と日本人との結婚で減少しつつある(37万人→33万人)。
 平成29年末の一般永住者を国籍別に見ると、中国が25万人で3割を占め、一番多い。続いてフィリピン13万人、ブラジル11万人、韓国7万人、台湾2万人となる。関係者周知のように、この25万の永住中国人が朝鮮総連のような祖国に忠誠を誓う政治組織を作ることは現行法上、合法なのだ。

 ●緩められた永住条件
 一般永住の申請資格は法令上、永住が日本の利益になり、素行が善良で独立生計を営める者とされており、法務省はガイドラインで「日本に原則10年以上住み、うち5年は就労資格を持つこと」を求めている。この在留期間条件は法令に明記されていない。もともと20年間の在留を求めていたが、平成10年に法務省が国会の審議なしに10年に短縮した。その結果、同年末に9万人だった永住者が20年間で8倍以上に増えた。この危険性を国基研は繰り返し指摘してきた。
 また、帰化の条件は5年以上の居住である。今回新設が国会で審議されている専門度の低い「特定技能1号」による在留を永住資格の居住年限に組み入れないことを政府は明らかにしているが、帰化条件との関係は明確ではない。
 新設されようとしている「特定技能」だけを議論していては、外国人政策の全体が見えない。帰化や一般永住の条件を含めて、外国人政策の全体を日本の国益と安全保障の観点から抜本的に見直す時期に来ている。(了)