米中ロ、北朝鮮に、サウジアラビア、トルコ、イランなど諸国の動きが目まぐるしい。世界情勢を読むのは難しい。11月23日、国基研のシンポジウム「米中激突 日本の覚悟」でも、国際社会の展望をめぐって3時間以上にわたる議論が展開された。
年に一度の「会員の集い」のシンポジウムで、国基研を代表するパネリストの多くは米中対立が長期化するとの見方を示した。米中対立は単なる貿易戦争に収まらず、中国の政治、経済、外交、軍事各分野の行動をめぐる全面対決に拡大しているからである。対立が21世紀の覇権争いの様相を強める中で、最終的に米国が勝つのか、中国の力は侮れないのかについても、コーディネーター役の櫻井よしこ理事長を含めての議論は迫力満点だった。
●トランプ大統領に「一抹の不安」
トランプ政権の対中政策に心配な点がないわけではない。パネリストの田久保忠衛副理事長は、「国家には永遠の敵も味方も存在しない。あるのは国益のみ」というキッシンジャー元米国務長官の言葉を引用して、「トランプ大統領がいつ『国益のため』と称して中国と取引をするか、一抹の不安はある」と注意を喚起した。
湯浅博主任研究員は、米中対立の先に「新冷戦」を見る。安倍晋三首相への進言として、チャーチル元英首相が1946年の「鉄のカーテン」演説で米ソ冷戦の到来を告げた米ミズーリ州フルトンを訪れ、中国と相いれない価値観である自由、民主主義、法の支配の重要性を語るよう呼び掛けた。
西岡力研究員は、ソ連崩壊後、東アジアの共産主義国家は共産主義のイデオロギーより反日や反米の民族主義に立脚する全体主義国家に変質したと論じた。その上で、米ソ冷戦時代との違いは、中国に代表される全体主義国家が市場経済を採用し、世界経済に参入したことだと解説した。
●憲法改正が喫緊の課題
トランプ政権は中国に強く出る一方で、貿易不均衡や防衛分担をめぐって同盟国批判もためらわない。米国の不満にはもっともなところがある。とりわけ世界第三の経済大国である日本が未来永劫、国家の安全保障を米国に依存するかのような仕組みに米国が疑念を抱くのは当然だろう。わが国は日米同盟の重要性を再確認しつつ、急ぎ憲法改正を実現すべきだとの認識をシンポジウムは共有した。
日米同盟を補完する枠組みとしては、オーストラリア、インドなど日米と価値観を共有するインド太平洋諸国との連携を強化すべきだ。昨年、10年ぶりの高官対話復活で注目された日米豪印4カ国協力の具体化が足踏みする中で、これら諸国が参加する3国間、2国間協力や、英仏など欧州国家を含む多国間協力を重層的に進めることが重要である。(了)