公益財団法人 国家基本問題研究所
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今週の直言

大野旭(楊海英)

【第580回・特別版】少数民族弾圧と中華思想

大野旭(楊海英) / 2019.03.19 (火)


静岡大学教授 大野旭(楊海英)

 

 米国務省は13日、2018年度の世界各国の人権状況をまとめた報告書を公表し、この中で中国政府の少数民族抑圧政策について、実例を挙げて分析し、非難した。
 中国政府によって拉致され、強制収容所に監禁されているウイグル人などは80~200万人に達する、と報告書はいう。ウイグル人のほかに、同じトルコ系の民族であるカザフ人も含まれている。ウイグル語とカザフ語はそのまま通じ合うほど親縁性が高く、両者は兄弟民族である。
 中国政府の弾圧がウイグル人を超えてカザフ人にも及んだ事実を見ると、東トルキスタン地方に古くから住んできた諸民族を完全に抹消してから、「中国人すなわち漢民族の新疆」を創出しようとしている北京当局の意図が見えている。

 ●日本は中国糾弾の先頭に立て
 21世紀の現在において、白昼堂々と民族浄化を行っている暴政に対し、世界は何一つ有効な手立てが取れていないところに理不尽がある。この理不尽は最終的にアジアひいては世界全体の不安定要因にもかりかねないので、民主主義国家の日本は先頭に立って、中国政府を糾弾すべきである。
 中国政府は日本を含めた先進国から盗んだ先端技術を駆使して民族浄化を新疆ウイグル自治区と内モンゴル自治区、それにチベットで進めている。新疆ウイグル自治区ではウイグル人のDNAを組織的に摂取しているし、監視カメラを自治区の津々浦々にまで設置している。イスラムの信仰は完全に否定され、礼拝にも行けなくなっている。ウイグル人の家庭に中国人の幹部が進駐し、豚肉食が強制されている。そして、学校でもウイグル語による教育は次第になくなってきている。
 これらの人権弾圧行為はすべて「テロリスト予備軍」を事前に武装解除するためだと北京当局は詭弁きべんろうしている。ウイグル人側に抵抗があったとしても、その原因は中国政府にあるということを習近平政権は分かっていない。
 チベットはどうか。「立ち遅れたチベット人」を援助しようとして政府は携帯電話や炊飯器を配る。そのような機器類には盗聴器が仕込まれ、チベット人も24時間体制で監視されている。内モンゴル自治区の場合だと、モンゴル人が先祖代々暮らしてきた草原を外来の中国人が奪い、先住民は貧困のどん底に追い込まれている。

 ●ナチスをしのぐ優越思想
 良識ある世界のメディアはこうした蛮行の原因を中国政府や中国共産党に帰そうとするが、決してそう単純ではない。漢民族の中華思想にも大きな原因がある。自らを最も優れた人種、自国を天下の中心と妄想する中華思想は、ナチスドイツの反ユダヤ人イデオロギーをも凌駕しており、この自己中心主義こそが少数民族弾圧の最大原因だ、と指摘しておかねばならない。(了)