インド総選挙での与党人民党(BJP)の圧勝を受け、第2期モディ政権が発足した。外交政策は1期目と大きく変わらないとみられるが、とりわけ注目されるのは中国との関係だ。「強いインド」を掲げて選挙に勝ったBJPだが、そのマニフェストはインドの潜在的脅威である中国について一度しか触れていなく、それも日米印の3カ国協力と並んで記載された中露印の3カ国協力推進である。
●対中改善演出の理由
インドが中国との関係改善に動いているのには、幾つかの理由がある。第一に、経済的な結び付きの強さである。中印貿易は800億ドルの水準で推移しており、日印貿易の5倍以上だ。インドで売られているスマートフォンの2台に1台は中国ブランドだし、インド政府は次世代通信規格5G構築でファーウェイ(華為技術)製機器の使用を禁止しないとの見方が少なくない。
第二は、中国とインドの国力の差だ。現時点で中国の国内総生産(GDP)はインドの約5倍で、インドの軍事力は中国を大きく下回り、いま中国と争ってもインドには全く勝ち目がない。
第三に、国連安保理常任理事国である中国はインドに対して様々なカードを切ることができる。インドが望む常任理事国入りには中国の賛成が必要だし、2月にジャム・カシミール州で爆破テロを起こしたパキスタンのテロ組織ジャイシェ・エ・モハンマドの指導者マスード・アズハルを国連がテロリストに指定することも、中国政府はつい最近まで阻止してきた。中国はインドが望む原子力供給グループ(NSG)加入も妨害している。いたずらに中国を刺激することは、インドにとってマイナスにしかならない。
第四に、中国との関係改善を演出することは、中国と対立する米国のトランプ政権を牽制することにもなる。「八方美人」的外交をインドが続けるメリットは少なくない。
●怠らない中国への牽制
インドの対中政策は硬軟織り交ぜたものである。インドは中国が嫌がるオーストラリアの日米印3カ国合同軍事演習参加に消極的な姿勢を見せる一方で、米国や日本と閣僚レベルの外交・防衛協議「2プラス2」の実施で合意し、軍事費も大幅に強化している。インドはまた中国主導のアジアインフラ投資銀行(AIIB)には参加しているものの、透明性に欠ける「一帯一路」構想は支持していない。インド国内では中国と国境を接する北東部の州の開発が重視され、最近ではシッキム州の空港やアッサム州の橋が完成している。インド政府は表立って言わないが、「万が一」の事態に備え、軍事利用できるインフラを整備していることは誰もが知っている。
第2期モディ政権の閣僚人事では、ジャイシャンカル前外務次官の外相起用が注目された。職業外交官出身の同氏はモディ首相の信用が厚く、第1期政権で外務次官として中国との軍事対立回避、米国や日本、中東諸国などとの関係強化で優れた外交手腕を発揮した。10月11日にインドのバラナシで予定される中印首脳会談に向けた両国の動きに注目すべきだ。(了)