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島田洋一

【第625回・特別版】「冷内戦」を悪化させる米主流メディア

島田洋一 / 2019.10.07 (月)


国基研企画委員兼研究員・福井県立大学教授 島田洋一

 

 米国の人気トークラジオのホスト、ラッシュ・リンボー氏は、現在の米国の政治状況を「冷内戦」(Cold Civil War)と評している。トランプ大統領支持陣営と反トランプ陣営がゼロサムゲーム的闘争をエスカレートさせ、建設的議論が全く成り立たない状況を指す。
 保守派のリンボー氏にとっては、トランプ支持勢力が冷戦時代の米国、野党民主党がソ連、その別働隊の様相を強める主流メディアがプラウダ(ソ連共産党機関紙)という位置付けになろう。

 ●北朝鮮危機そっちのけの米記者団
 ここで党派的議論に立ち入るつもりはないが、問題にせざるを得ないのは、米主流メディアとりわけホワイトハウス記者団の姿勢である。限られた記者会見や立ち話の場で、重要テーマについて的確な質問をし、大統領の考えや政権の方向性を引き出すのが彼らの役目である。しかし今のホワイトハウス記者団は総じて、「トランプに打撃を与える」ことを目的とした揚げ足取りに汲々としている。「トランプと渡り合う自分」をアピールすることしか念頭になさそうな記者もいる。そこには、自由主義陣営のリーダー国の中枢で取材し、世界に発信するという自覚や矜恃が露ほども窺えない。
 典型的だったのは、北朝鮮が海中発射型の準中距離弾道ミサイル実験を行った10月2日、ホワイトハウスで開かれたフィンランド大統領との共同記者会見である。北の短距離ミサイル発射は問題視しないという従来のトランプ氏の立場(それ自体問題だが)に照らしても、同日の北の実験は明らかに一線を超えている。当然、大統領の認識を鋭く問う質問が出るものと期待し、注目した。ところが記者団が息せき切って次から次に発したのは、実体なき「ウクライナ疑惑」に関する瑣末きわまりない質問のみだった。呆れるとともに強い苛立ちと侮蔑感を覚えた。彼らは、自分たちがいかに矮小な存在と映っているか気付かないのだろうか。

 ●弾劾追求は時間の無駄
 こうしたメディアに煽られる形で、下院民主党は大統領弾劾へ向けて動き出した。弾劾成立には上院の3分の2の賛成がいる。与党共和党議員のほとんどは、大統領には不必要な言動が多く困りものだが、弾劾に値するような罪は犯していないとの立場である。一般共和党員の間で大統領支持率が90%を超える中、弾劾成立は予見し得る将来あり得ない。低次元の政争に膨大な時間が空費されるだけに終わろう。同盟国、友好国にとっても迷惑かつ危うい話である。
 産経新聞など一部を除いて、日本の大手メディアの米国報道は、主流メディアの歪みをより単純化して受け売りする傾向が強い。日米問わず、主流メディアからは今後、本質的、建設的な政策情報は出てこないと見るべきだろう。ウクライナ疑惑でリークの危険が明らかになった首脳間の電話会談では、本音は聞けない。重要問題に関するトランプ氏の認識を知るため、安倍晋三首相は直接会談の機会を従来以上に増やす必要があろう。(了)