10日、河野太郎防衛相は海上自衛隊の護衛艦と哨戒機に中東海域への派遣命令を出した。
米イラン関係の緊張の高まりを受け、大半の野党は派遣に反対するが、日本の原油輸入量の約9割を依存する中東海上交通路の安全確保に日本が参画しなくて良いのかという疑問には答えない。
米国は中東への軍増派を決めた。日本が「安保ただ乗り」をしていれば、いつ再びトランプ米大統領の同盟不公平論が爆発するやもしれない。
中国の海軍専門月刊誌『艦船知識』2月号には、米主導の海洋安保構想参加国艦艇の動きが海自も含めて時系列的に中東の海図と共に示されており、中国も海軍を派遣する可能性がある。韓国も米国から派遣への圧力をかけられている。中韓から嘲笑気味に「日本のタンカーの面倒も見てやろうか」と言われたら、野党は何と答えるのか。
海自派遣に際し、政治家に望むことは最低限二つある。
●任務増大・人員減少の自衛隊
2007年に改正された自衛隊法では「周辺事態」と「国際社会の平和と安全のための活動」が本来任務に加わった。にもかかわらず13年後の今日、自衛隊の現員は当時より約1万4000人減っている。
特に海自は、北朝鮮の弾道ミサイル発射に備えてイージス艦を常時展開しているし、国連制裁決議に違反する北朝鮮の「瀬取り」(海上での船荷の移し替え)の監視、取り締まりにも当たっている。中国公船が領海侵入を繰り返す尖閣諸島周辺では、海上保安庁の手に負えなくなる場合に備えて、海自の艦艇や航空機が展開する。アデン湾での海賊対処に当たる艦艇や航空機もいる。艦艇や航空機を1ユニット展開するには、修理・整備、訓練・回航も含めて3倍の数が必要になる。
2017年には米海軍のイージス艦が1隻座礁、2隻が衝突事故を起こしたが、原因は任務過多に伴う乗組員の訓練不足であった。昨今、自衛隊の事故が余りにも多く、そのうち何か大惨事が起きないかと心配である。
人口減少の中で、海自だけの増員を望むことは無理である。しかし、自衛隊、海上保安庁、警察、消防といった防衛・公安関連の公的職業の採用と基礎教育を国が包括的に管理し、国全体として人的資源を効果的に分配することは可能だろう。これが政治家に望む1点目だ。
●「調査研究」での派遣に限界
今回、政府は防衛省設置法第4条の「調査研究」を根拠に自衛隊を中東へ派遣した。しかし、調査研究という概念は極めて消極的であり、例えば不審船に「航行の目的は何か」と問い掛けることもはばかられ、海上交通路安全確保の実効性には疑問がある。
国際標準である「警戒監視」であれば、積極的な問い掛けができる。今回の派遣に間に合わせることは無理だが、自衛隊法第6章の「自衛隊の行動」に「警戒監視」を速やかに追加すべきである。これが第二の要望だ。
自衛隊は今も日本周辺で警戒監視活動を行っているが、法的根拠は同じく「調査研究」だ。中東派遣は特に危険性が高いので、質問権に疑念のない警戒監視を自衛隊の任務として正式に規定する必要がある。(了)