公益財団法人 国家基本問題研究所
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今週の直言

太田文雄

【第1138回】世界的連携を妨げる国内体制の不備

太田文雄 / 2024.04.15 (月)


国基研企画委員・元防衛庁情報本部長 太田文雄

 

 岸田文雄首相は4月10日、バイデン米大統領とホワイトハウスで会談し、「未来のためのグローバル・パートナー」と題した共同声明を発表した。11日の米議会上下両院合同会議での演説では、国際秩序を守るため日本は米国と共に「大きな責任を担う」と述べた。
 現在、国際秩序を乱しているのは、ウクライナ戦争、中東での戦争、そして台湾海峡と南シナ海の緊張の高まりである。この3地域で、日本が言葉だけでなく行動でグローバル・パートナーとしての責任を果たすためには、国内体制を整備しなければならないが、その覚悟や具体策は岸田首相にあるだろうか。

 ●ウクライナへ武器輸出ができない
 ウクライナは武器弾薬が不足し、ロシアに対して劣勢が伝えられている。特にウクライナのゼレンスキー大統領は防空兵器と砲弾の提供を国際社会に求めている。しかし、日本がそれをウクライナに直接輸出することは、連立与党を組む公明党の反対等でできない。
 日本は武器弾薬の保有数管理のため、自衛隊が防空兵器であるパトリオット3を導入すれば既存のパトリオット2を廃棄しなければならない。203ミリ榴弾砲の砲弾も、費用をかけて廃棄処分している。ウクライナの劣勢挽回に役立つ兵器や砲弾を廃棄するのは不合理である。
 日本は昨年末、米企業のライセンスにより日本国内で生産するパトリオット2を米国に輸出することを決めた。米国がウクライナへの輸出で在庫不足になったのを補うためで、日本にとってウクライナへの迂回うかい支援となるが、あくまで間接的である。

 ●ハードルが高い集団的自衛権行使
 中東では、イエメンの親イラン民兵組織、フーシ派により昨年11月に日本郵船が運航する自動車運搬船が拿捕され、12月にはインド洋で日本企業所有のタンカーが攻撃された。にもかかわらず、フーシ派に反撃する米国、英国、カナダ、フランス、イタリア、オランダ、スペイン等10カ国からなる「繁栄の守護者作戦」に日本は参加していない。
 理由の一つは、こうした国々の艦艇等が攻撃された際に反撃できる集団的自衛権の発動には、日本国の存立が脅かされていることなどの認定が必要で、国内的に極めてハードルが高いためだ。
 岸田首相はワシントンで日米比3国首脳会談にも臨んだが、フィリピンとの防衛協力にも集団的自衛権行使のハードルの高さは影響する。

 ●台湾支援の国内法がない
 米国は1979年制定の台湾関係法に基づき台湾に防衛用兵器を提供し、2018年の台湾旅行法で高官の交流を可能にした。また昨年末の国防権限法は、台湾軍の訓練など台湾への支援強化を盛り込んでいる。
 しかるに日本には、このような法律は存在しないし、有事に台湾を支援するための根拠法ももちろんない。日本から時折訪れる国会議員団にしても「台湾のリーダーと写真を撮るだけで何もしてくれない」といった不満が台湾側から漏れ伝わる。
 米国は岸田首相の訪米で、有事に日本はグローバル・パートナーとしての役割を果たしてくれるとの期待を高めたはずだ。その期待が裏切られた時の反動が怖い。(了)