「日本はグローバル・パートナーになった」。岸田文雄首相が訪米で表明したこの言葉は重い。そこで本欄でも江崎道朗氏が「憲法改正」、太田文雄氏が「軍事面での国内体制の整備」の必要性を指摘した。本稿ではそれに加えて経済安全保障面を指摘したい。
●防衛産業協力は政府一体で
日米首脳の共同声明では安全保障協力として防衛産業の協力の深化も打ち出された。米国は防衛生産に対して強い危機意識を持っている。国内の生産基盤が衰退しつつある脆弱性を露呈したのがウクライナへの軍事支援であった。
今年1月、米国防総省は「国家防衛産業戦略」を公表した。これは防衛産業の基盤の強化・近代化が目的だ。注目すべきは、近代化された防衛産業のエコシステム(関連企業が有機的につながる産業構造)を構築して「統合された抑止力」を目指すことだ。「統合」とは、軍事面のみならず経済、外交も含めること、そして同盟国などと一丸となって取り組むことを意味している。
例えば、強靱かつ革新的な供給網の構築だ。伝統的な防衛産業のみならず、軍事・非軍事を「統合」して取り組むとする。そして「国防総省単独ではこうした課題は解決できない」としている。しかも同盟国、同志国と経済安保も含めて取り組むべし、としている。
この関連で共同声明には、日米防衛産業の協力に向けた定期協議(DICAS)の開催が盛り込まれた。「統合」をめざす米国と、グローバル・パートナーとしてかみ合った政策対話をする必要がある。そのためには日本側も「統合」を念頭に置いた体制で臨むべきだ。具体的には、国家安全保障局が司令塔になって防衛省、外務省、経産省と政府一体の推進体制を組むべきだろう。
●グローバルサウス対策でも日本に役割
統合戦略も面的広がりが必要だ。今回、日米比三か国の首脳会談も初めて行われた。中国が海洋進出を強める中、米国は海洋秩序を守るうえでフィリピンを重視する。日本もこの枠組みを生かし抑止力を高めるのはグローバル・パートナーとしては当然だ。また、米国のトランプ政権復活に備えて、アジアの国々を取り込んだ枠組みの「制度化」は重要だ。南シナ海での海上保安機関による合同訓練やフィリピン軍への日米による側面支援も合意された。
こうした防衛面での協力と共に日本の役割が期待されるのが非軍事での経済安全保障だ。「制度化」と併せて、アジアの国々を取り込んだ「実態づくり」を進める必要がある。
具体例が次世代通信での協力だ。中国の通信機器大手ファーウェイによる通信網を西側諸国は事実上排除しているが、グローバルサウスと呼ばれる新興・途上国では中国が広域経済圏構想「一帯一路」を活用して浸透しつつある。こうした事態を巻き返すべく、日米企業による国際連携で主導するのが次世代の通信技術「オープンRAN」だ。これをフィリピンで試験的に導入する計画を日米が支援することになった。
こうした経済安保のプロジェクトを積み上げていく戦略こそグローバル・パートナーには求められる。(了)