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織田邦男

【第1171回】総裁選候補者は自らの安全保障観を語れ

織田邦男 / 2024.08.26 (月)


国基研企画委員・麗澤大学特別教授・元空将 織田邦男

 

 来月の自民党総裁選に、現時点で12名の議員が名乗りを上げている。総裁選は、自民党が政権与党である限り、首相を選ぶ選挙であり、同時に自衛隊最高指揮官を選ぶことを意味する。かつて自衛隊高級幹部会同で、「ここに来る前に六法全書を調べたら、私が最高指揮官だった」と述べた首相がいた。こういう人は総裁になる資格がない。

 ●防衛費は5年間43兆円のままでいいのか
 国家の最重要事項は国家の安全であり存続である。国家の安全なくして人権も繁栄もあり得ない。日本は戦後最も厳しく複雑な安全保障環境に置かれている。総裁選に名乗りを上げた候補者には、特に以下の3点を具体的に語ってもらいたい。
 (1)防衛費は5年間43兆円のままでいいのか
 (2)核抑止は米国頼みでいいのか
 (3)「国内総生産(GDP)比2%」は2027年度限りか
 (1)については、2022年12月、国家安全保障戦略などいわゆる戦略3文書が策定されて防衛力の抜本的強化がうたわれ、5年間の防衛費約43兆円が閣議決定された。だが、閣議決定から2年近くたち、円安、物価上昇の影響で防衛装備品の調達価格が高騰し、「現実的なシミュレーションを行って」(岸田文雄首相)定めた防衛力の抜本的強化が43兆円では実現困難になりつつある。
 これに対し、「現実的な視点で金額を見直す必要がある」という意見がある一方、「43兆円を超えることは考えていない」(財務当局)という意見が強い。円安や物価高で目減りした予算を更なる効率化、合理化で埋め合わせるのは非現実的だ。現在、後者の方向性で動いているようだが、本当にそれでいいのか。
 (2)の核抑止戦略は、国家安全保障戦略の欠落部分である。同戦略には米国の拡大核抑止に依存することしか書かれておらず、画竜点睛がりょうてんせいを欠いている。我が国は三つの核保有国に囲まれ、特に中国は核兵器の大増産を実施中である。北朝鮮は米本土に届く弾道ミサイルが完成間近といわれる。ウクライナ戦争では、ロシアが核による威嚇・恫喝を行っている。こういう状況下で、米国の拡大核抑止に依存するだけでいいのか。

 ●「GDP比2%」は2027年度限りか
 最後の(3)は、現在の防衛力整備計画が終わる2027年度の後の防衛力整備に関することである。岸田政権では同年度までに防衛予算をGDP比2%に引き上げることにした。ようやく北大西洋条約機構(NATO)並みになるわけであるが、その後については明確でない。厳しい安保環境は当分続き、今以上の防衛努力が欠かせない。他方、「GDP比2%」は岸田政権までで、その後は白紙という意見も出ている。
 脅威も危機事態も想定せず、自らが「力の空白」になりさえしなければいいという無責任な「基盤的防衛力構想」へ回帰するようなことがあれば、国際的に孤立し、日本の安全保障は破綻する。総裁選各候補者には、自らの安全保障観を存分に語ってもらいたい。(了)