本来、石破茂首相の外交の見せ場となるはずだったアジア太平洋経済協力会議(APEC)と主要20カ国・地域(G20)の両首脳会議への出席。今回の一連の石破外交を以下の三つの視点で総括しよう。
第一は石破首相自身の物議を醸す外交不慣れな振舞いの数々。
第二は短絡的に「トランプの影」と結びつけたがる日本メディアの報道ぶり。
第三に対中関係で日本は中国の具体的行動につなげる好機を活かせるか。
●首相が外交不慣れを露呈
国際会議に不慣れな石破首相の姿が随所に露呈した。ペルーでのAPECでは、会合直前に各国首脳が互いに挨拶し、談笑する中、石破首相は席に着いたまま書類やスマートフォンを一人でながめていた。そして挨拶に来た各国首脳に座ったまま握手をしたのは外交マナーを欠く。その動画が拡散し、批判が広がった。随行していた外務官僚も傍観するだけでは情けない。さらにフジモリ元ペルー大統領の墓参に行った帰りの交通渋滞で、首脳の集合写真に間に合わなかったのも現地大使館の大失態だ。いずれも外務省の責任は重い。
●「トランプ氏の影」は誤解
日本メディアの報道ぶりもいただけない。何でも「トランプ氏の影」と報道する。APEC首脳宣言ではトランプ次期政権をけん制して、「自由貿易の重要性」や「多角的貿易体制の確保」が盛り込まれたとする。これはメディアの理解不足によるものだ。
首脳宣言の文案は米大統領選の結果が出る前から事務方の折衝で用意されている。トランプ氏の再選とは関係がない。しかも、今や多国間の会議は意見対立で合意困難になっており、文案もこれまでの国際会議で合意済みの〝常とう句〟を繰り返す。「多角的貿易体制の確保」はその一つだ。
「自由貿易」についても「自由かつ公正な貿易」との表現が国際会議では定着している。「自由」は米国の保護主義への警戒だが、「公正」は中国の不公正な貿易をけん制する。今回の首脳宣言も「自由かつ公正」となっている。ところが日本のメディアは「自由」だけ取り出して、「トランプ次期政権へのけん制」と報道した。
●中国の具体的行動につなげる好機
中国は対中強硬のトランプ次期政権に備えて、各国に外交攻勢をかけている。米国の同盟国や同志国を揺さぶり、分断する意図もある。中国経済が悪化する中で、トランプ次期政権による高関税は深刻な打撃となる。そこで日本にも秋波を送る。
そうした中で、ペルーで行われた日中首脳会談の成果はどうか。会談では「戦略的互恵関係」の包括的推進を改めて確認した。この言葉は2008年の日中共同文書に遡るが、近年、首脳会談で改めて確認することが繰り返されている。しかし、この言葉を何回唱えても、具体的な問題の解決につなげないと意味がない。
中国は関係改善で日本からの投資を期待している。早速、短期の訪中ビザの免除措置を再開するカードを切った。しかし、日本はこの程度で済ましてはいけない。反スパイ法や技術流出の懸念など、対中投資を妨げている深刻な問題が他にある。日本は首脳会談を中国による具体的行動につなげる好機とすべきだ。(了)