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奈良林直

【第1209回】エネ基本計画原案への一定の評価と不満

奈良林直 / 2024.12.23 (月)


国基研理事・東京科学大学 特任教授 奈良林 直

 

 12月17日、「第7次エネルギー基本計画」の原案が政府によって公表された。これに先立ち、国基研エネルギー問題研究会は9月9日付で「再エネ(再生可能エネルギー)の主力電源化はやめて、原子力の最大限活用に舵を切れ」と題する政策提言をまとめ、自民党の「脱炭素社会実現と国力維持・向上のための 最新型原子力リプレース推進議員連盟」総会で説明した。国基研の提言が政府原案にどれだけ反映されているかを調べてみた。

 ●原子力活用も再エネ依存残る
 国基研は「原子力の最大限活用に舵を切れ。国は革新軽水炉の新増設を早期に実現させよ」と提言した。これに対して、第7次エネルギー基本計画の原案は、現行計画の「原発依存度を可能な限り低減する」という文言を削除し、再エネと共に原子力を「最大限活用する」との方針を明記した。また、原発の新増設・リプレース(建て替え)が進むように、電力会社が原発を廃炉にした場合、同じ会社の別の敷地に革新軽水炉の建設を認めることを盛り込んだ。原電敦賀2号も再稼働すべき原発に入っている。これらは大いに評価してよい。
 原案はさらに、再処理施設の運転を急ぐこと、高レベル廃棄物の地層処分地選定実現のために、地元の理解増進に関係機関が積極的に取り組むこと、高速炉の燃料サイクルへの注力やプルトニウム燃料の有効活用も明記された。これも評価できる。
 しかし、一方で、「再エネの主力電源化をやめよ。再エネは国民負担を増大させ、財政を圧迫する」との提言に対し、原案は2040年度の再エネ比率を4~5割と設定し、現行計画の2030年度目標の再エネ比率36~38%から引き上げた。それが事前に報道されたため、国基研では緊急の研究会を開き、電気料金の高騰を防ぐことを政府に申し入れた。再エネの主力電源化が電気料金高騰を招く理由を以下説明しよう。

 ●再エネ主力電源化のコスト
 ここで問題になるのは設備利用率である。設備利用率とは発電設備の能力に対して実際に発電できた電力の割合を示す。原発の設備利用率は100%、発電を2か月停止する定期検査を考慮しても83%だ。それに対し、太陽光は日中しかも晴天の時しか発電に利用できないので、設備利用率は13%と低い。風力発電の設備利用率は25%程度である。太陽光と風力を足しても38%にしかならない。これに水力やバイオマス発電の12%を加算して、やっと50%になる。
 しかし曇天・無風では太陽光と風力の発電量がほぼゼロになるので、水力と火力と原子力で国の電力を100%供給する設備が別に必要になる。つまり再エネ50%という目標は、国の必要とする電力の3倍の設備をつくらないといけないことになる。本州の3分の1の面積を占める太陽光パネルと我が国の排他的経済水域(EEZ)を埋め尽くすほどの洋上風力発電設備が必要となり、国家財政的にも実現不可能だ。
 このため、今回のエネルギー基本計画原案には、安価なバッテリーの開発や、電気を熱エネルギーで蓄える蓄熱、メタンやメタノールなどの合成燃料開発の必要性も明記されたが、技術開発の途上にある。(了)