公益財団法人 国家基本問題研究所
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今週の直言

西岡力

【第1248回】VOJを設立し中朝との認知戦を戦え

西岡力 / 2025.04.28 (月)


国基研企画委員兼研究員・麗澤大学特任教授 西岡力

 

 米政府は冷戦時代から、国家予算を投入してソ連、東欧、中国、北朝鮮など全体主義国家の住民に真実を伝える活動をしてきた。今風にいえば「認知戦」である。その担い手がVOA(ボイス・オブ・アメリカ)、RFE(自由欧州放送)、RFA(自由アジア放送)だった。
 所属する記者は政府の広報を一方的に流すのではなく、独自に取材して記事を書く独立性を与えられていた。ソ連や東欧の共産党政権崩壊にはこれらの放送が大きく貢献した。冷戦後も米政府は中国や北朝鮮の住民向けに短波ラジオやウェブサイトを通じて中国語、朝鮮語、チベット語、ウィグル語などで真実を伝える活動をしてきた。

 ●米政権がVOAなどへの支援中断
 ところがトランプ米大統領は政権に返り咲くや3月14日、これら放送への資金支援を止める大統領令に署名し、全体主義政権に対する重要な認知戦を中断した。トランプ氏は1次政権の時からVOAなどがトランプ政権に過度に批判的だとして圧力をかけていた。
 VOAは全職員1300人を休職扱いとし、活動を停止した。RFAは中国語、チベット語、ラオス語のラジオ放送を中断し、朝鮮語、ウィグル語、ビルマ語、カンボジア語のラジオ放送を大幅に縮小し、ウェブサイトなどを通じてのニュース発信を細々と続けている。
 ワシントン連邦地裁は4月22日、トランプ政権の措置は違法だとして、VOAなど政府支援金を受けるメディアへの閉鎖措置を中断し、職員を業務に復帰させるよう命じた。政権側は控訴すると見られ、最終結論はまだ出ていない。

 ●日本は早急な放送開始を
 以上のような状況を踏まえ、日本政府が東アジア、あるいはインド太平洋地域における認知戦の主導権を取るべきだと提案する。
 ソ連、東欧の体制崩壊以降も、中国共産党独裁政権と北朝鮮世襲独裁政権は、階級論を重視する共産主義から極端な自民族優先主義に立つファシズムへ移行しつつも全体主義統治を続け、両国住民に対してすさまじい人権侵害を続けている。その被害は日本人拉致被害者にも及んでいる。わが国は2006年の第1次安倍晋三政権発足後、価値観外交を掲げ、第2次安倍政権では「自由で開かれたインド太平洋」を提唱し、米国も支持を表明した。
 ところが、全体主義統治下で苦しむ住民に真実を伝える認知戦はこれまで米国の独壇場だった。わが国は北朝鮮による日本人拉致被害者救出を目的とする短波放送を細々と行っているだけだ。一方、日本政府は日本文化を世界に広める活動に多額の予算を投入してきた。既に日本文化は政府が支援しなくても世界にあふれている。これからは、歴史戦を含む認知戦に国費を投入すべきだ。VOAに範をとったVOJ(ボイス・オブ・ジャパン)や、日本版RFAを早急に発足させるべきである。(了)