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田村秀男

【第1254回】中国封じの決め手は人民元相場の自由化

田村秀男 / 2025.05.19 (月)


国基研企画委員・産経新聞特別記者 田村秀男

 

 米国と中国は5月10、11日のスイスでの高官協議で、米国の対中関税の145%から30%への引き下げなどで暫定合意した。両国は今後90日間、包括的な経済の枠組みを話し合うという。トランプ米政権が包括協議の主要テーマとして取り上げるべきは、人民元相場の管理制度の撤廃である。

 ●貿易秩序を破壊した中国
 高関税は百害あって一利なし、である。米金融市場では米中双方が高関税の撃ち合いを始めた4月7日ごろから動揺が広がり、一時はドル安、株安に加え米国債まで売られる「トリプル安」となり、世界全体に市場不安が広がった。他方、中国は高関税の衝撃をかわすために、自国産品を東南アジアなどに迂回させて対米輸出するばかりでなく、全世界に向けて大量の余剰品の輸出攻勢をかけかねない。世界経済はカネもモノも大混乱に陥ってしまう。
 そんな中、米国の対中強硬姿勢の後退は米国のみならず世界の不幸である。「相互関税」など一連のトランプ関税は国際貿易ルールに反すると西側世界で評判が悪いが、長らく国際貿易秩序を無視し、破壊してきたのは中国である。一党独裁体制による強権によって、巨額の政府補助金を出し、鉄鋼など在来品から電気自動車(EV)など新規分野まで、過剰投資、過剰生産を続けてきた。海外向けには安値輸出洪水を引き起こしている。これに対し、世界貿易機関(WTO)は無力極まりない。

 ●為替管理で元安誘導
 中国の横暴を抑える決め手はある。それは人民元の管理変動相場制に代え、完全に自由な変動相場制への移行を促すことだ。それに向け、米国が中心となり、日欧が結束、同調すべきである。
 管理変動相場制は、通貨当局が基準レートを決め、為替市場介入によって基準値(中心レート)の上下2%以内に対ドルレートの変動を抑え、元安に誘導する。巨額の貿易黒字にもかかわらず、現在の元の対ドルレートは2013年の習近平政権発足時に比べて66%も安い。
 習政権は2013年に巨大経済圏構想「一帯一路」、2015年には製造業強国を目指す「中国製造2025」を起動した。為替レートが低めに安定する中国市場に引き寄せられた日米欧企業は、製造ノウハウ、先端技術を合弁先の中国の国有企業に提供する。中国企業は技術、コスト両面で国際競争力を高め、輸出攻勢をかける。中国人民銀行は巨額の貿易黒字による外貨を吸い上げ、それを元手に人民元金融を拡大し、さらなる生産力増強を支援する。
 軍拡や海洋進出、「一帯一路」圏もカネとモノの膨張に支えられる。中国の脅威とは人民元相場操縦の所産なのだ。(了)