公益財団法人 国家基本問題研究所
https://jinf.jp/

今週の直言

  • HOME
  • 今週の直言
  • 【第1257回】中国の侵攻能力強化に日本は目を覚ませ
岩田清文

【第1257回】中国の侵攻能力強化に日本は目を覚ませ

岩田清文 / 2025.06.02 (月)


国基研企画委員・元陸上幕僚長 岩田清文

 

 防衛省によれば、5月25日から29日にかけて、空母「遼寧」を含む中国海軍艦艇数隻が東シナ海から沖縄本島と宮古島の間の海域を南東進し、太平洋へ向けて航行した。 この間、25、26の両日、尖閣諸島・久場島の北約240キロ及び久米島の北西約190キロの海域において、空母搭載の戦闘機による発着艦が約90回、ヘリコプターによる発着艦が約30回確認された。
 5月3日の中国海警船艦載ヘリによる尖閣諸島周辺での領空侵犯に続き、尖閣諸島を戦闘機の行動半径内に収める形で空母からの発着艦が多数確認されたことは、特筆に値する。

 ●台湾侵攻のリハーサル
 中国空母艦隊の一連の行動は、台湾有事に向けた戦力展開を予行したと見るべきだろう。この点、米インド太平洋軍司令官サミュエル・パパロ海軍大将も今年2月、「現在、台湾周辺での彼らの攻撃的な作戦行動は、彼らが言うところの演習ではなく、台湾を(中国)本土に強制的に統一するためのリハーサルだ」と述べている。パパロ氏の指摘通り、中国軍は台湾周辺で昨年3回、今年は4月に1回、大規模な演習を行っており、いずれも台湾侵攻へ向け、実戦に必要な作戦行動が実行できるのかどうかを検証したものと言える。
 例えば昨年10月の演習では、台湾を海空域から封鎖し、主要な港湾や地域の制圧を想定して、過去最大の軍用機111機が台湾海峡の中間線を越えて台湾側まで進出している。また、昨年12月の海軍及び海警主体の演習では、過去最大の90隻の艦艇をもって、台湾全周の封鎖及び東シナ海、南シナ海への展開訓練を行っている。さらに今年4月には、台湾への輸入ルートの海上封鎖及び台湾のエネルギー施設を模した射撃場への実弾精密射撃を実施している。
 そして今回、空母艦隊の東シナ海から太平洋への展開及び艦載機による出撃訓練である。台湾有事の際、この空母艦隊は今回行動したいずれかの海域に展開し、台湾に対する日米の支援ルートを遮断する可能性がある。

 ●中国の脅威は本物
 ピート・ヘグセス米国防長官は5月31日、シンガポールで開かれたアジア安全保障会議(シャングリラ対話)において、「中国の脅威は現実のもので、それは差し迫っている可能性がある」と強い危機感を示すとともに、中国に対し、台湾の武力統一は「壊滅的な結果を招く」と警告した。
 まさに中国の脅威は本物であり、中国が本気で本格的軍事侵攻能力の完成を目指していることは現実である。日本は目を覚ますべきだ。(了)