今更であるが、私は日本がとても好きだ。先人世代が育んだ価値観を、心底、貴いものだと感じている。
歴史を振り返れば、自然と融合して生きてきた日本人の文化文明の穏やかさや人間への細やかな配慮を実感すると同時に、危機に直面しては雄々しく立ち上がってきた先人の足跡に、誇りと信頼を抱く。
しかし、このような日本の精神が戦後体制の下で惰眠に陥り続けているかに見えたとき、私たちは居ても立ってもいられない想いで国基研を創立した。私たちの初心は日本の立て直しであり、そこから生まれた目標の一つが、国際社会における日本研究を広め、深めることだった。
●国際貢献できる日本人の資質
国際社会には日本についての知識どころか、誤解が溢れている。中国政府による対日歴史闘争は1990年代初期の江沢民国家主席時代、「愛国教育」の名の下に始まったが、日本は歴史問題に関する他国の政治戦略の前で、ひたすら沈黙を守り通した。日本人の価値観や歴史の事実について、およそ一切の発信を怠った結果として、いま私たちは慰安婦問題、靖国神社参拝問題などへの非難と反発に直面している。
事実さえ知ってもらえれば慰安婦問題は氷解し、神道を学んでもらえれば靖国神社参拝は問題にさえならないだろう。日本研究の勧めが重要なゆえんである。
しかし、このような負の状況の反転だけが私たちの目的ではない。日本の在り方や価値観には、21世紀の人類社会に貢献できる多くの資質が内包されている。より良い国際社会のために日本研究を深め、推進していきたいと願うものである。
●第1回受賞者にドーク教授ら
今回、寺田真理氏の100万ドルのご寄付を基金として、私たちの思いを「寺田真理記念・日本研究賞」として発足させることが出来た。
第1回日本研究賞受賞者、米ジョージタウン大教授のケビン・ドーク氏は、日本が神道の祭祀王としての天皇を国民統合のよりどころとして戴きつつも、信教の自由を保障する健全な国民主義国家であるとし、日本の日本たるゆえんを優れた研究で明らかにした。特別賞の東京工業大学教授の劉岸偉氏が丁寧に奥深く描いた知日派文人の精神史は、険悪な日中関係に光を射し込むような希望を私たちに与えてくれる。
これら優れた日本研究をさらに推し進めたい。この想いの一滴を大河の流れとしたい。国基研から情報と価値観を世界に発信し、日本の展望を大きく切り開くことによって、国際社会への貢献としたいと願っている。(了)