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髙橋史朗

【第332回】官邸主導で「記憶遺産」対策チームの設置が急務

髙橋史朗 / 2015.10.19 (月)


国基研理事・明星大学教授 髙橋史朗

 

 10月4日~6日、アラブ首長国連邦の首都アブダビで開催されたユネスコ記憶遺産国際諮問委員会で、中国が登録申請した「従軍慰安婦」史料は不登録となったものの、「南京大虐殺」史料は登録と決定されてしまった。日本外交が取り返しのつかない大失態を犯した原因は一体何か。中国の申請から決定に至る経緯と日本側の対応を検証するとともに、日本が緊急に取り組むべき対策や国際広報のあり方などについて検討するチームを官邸主導で早急に組織する必要がある。

 ●日本の反撃へ六つの提言
 10月14日に開催された自民党の外交部会、文教部会、外交・経済連携本部、国際情報検討委員会、日本の名誉と信頼を回復するための特命委員会の合同会議において、私はアブダビ会議にオブザーバーとして参加して痛感した問題点と課題を指摘した上で、具体的提案をさせていただいた。それを踏まえて次の緊急提言をしたい。
 (1)「南京大虐殺」申請史料の中で、登録の選考基準となる「真正性」「完全性」に照らして問題のある史料を列挙し、登録の取り消しを求める。
 (2)ユネスコ記憶遺産事業の制度を抜本的に改革し、申請史料を全面的に公表して公開の場で議論する「透明性」の高い仕組みに改めるようユネスコに求める。ユネスコ執行委員会(58カ国で構成)の3分の2以上の賛成で登録システムを変更できるので、そのための働きかけに早急に着手する。
 (3)首相(官邸)主導で外務省、文科省、民間有識者から成る官民一体の研究・協議チームを発足させ、①「南京大虐殺」申請史料の検証、反論文書の作成②「従軍慰安婦」申請史料の検証、「中国人慰安婦」研究、中韓など6カ国が組織した国際連帯推進委員会が来年3月に予定している共同申請の動向分析、反論文書の作成―に取り組む。
 (4)その研究成果を踏まえて、政府見解や外務省ホームページの「歴史問題Q&A」を抜本的に見直す。
 (5)「南京大虐殺」申請文書が依拠している東京裁判について、自民党の特命委員会で再検証を行う。その際、国士舘大学の百周年記念「東京裁判研究プロジェクト」との連携を図る。
 (6)「従軍慰安婦」をアジア太平洋地域ユネスコ記憶遺産委員会に登録申請することもできるので、来年5月に改選される委員に日本代表を送り込む。3年前に民主党政権下で委員就任を打診されたが断った経緯があり、中国(議長、事務局長など4人)と韓国(副議長1人)で委員の半数を占めている点が懸念される。

 ●中国が1300万円の研究費
 中国政府は2年前から上海師範大学の慰安婦問題研究に1320万円の研究費を支給して申請を着々と準備し、韓国女性家族省傘下の韓国女性人権振興院が共同申請を推進している。わが国も官邸主導で官民一体となった体制を構築して万全を期さないと、2年後の登録審査で再び歴史的な大敗北を喫することは火を見るよりも明らかだ。(了)