「11月11日と12日に中国海軍のドンディアオ(東調)級情報収集艦が尖閣諸島南方海域を東西に反復航行した」と防衛省が公表した。今年7月に政府は東シナ海で中国が建設中の多くの海上プラットフォームの写真を公表したが(第317回「今週の直言」平成27年7月27日)、昨年末には中国が東シナ海に面する浙江省の南麂(なんき)列島を軍事基地化しているとの報道もあった。
●情報収集艦航行の狙い
このドンディアオ級情報収集艦は2010年に就役したばかりの新鋭艦で、艦上には多くのパラボラアンテナを有していることから、海面上の電波情報を収集している可能性がある。考えられる活動の一つは通信傍受だが、短波帯を使用して中国本土から発信される超水平線レーダー(OTHR=Over The Horizon Radar)や、近年連続して打ち上げている偵察監視衛星と連携して当該海域の効果的な監視を行い、「空母キラー」と呼ばれる対艦弾道ミサイルDF21Dとネットワークを構築する可能性もある。
しかし今回東西に往復したということから、海面下の音波伝搬状況を調べて潜水艦作戦に役立てるといった可能性の方が高い。過去に情報収集艦とほぼ同じ航跡を潜水艦が航行したことがあった。その場合には、沖縄本島を含む南西列島線と尖閣諸島を分断、具体的には沖縄の米海兵隊や陸上自衛隊の兵力が水陸両用艦で尖閣諸島に展開するのを、中国が潜水艦によって阻止するための準備とも考えられる。同情報収集艦は無人航空機(UAV)だけでなく、おそらく水中無人機(UUV)をも発射できる機能を備えているであろうから、今回これらを発射し、海面下の音波伝搬状況を偵察した可能性がある。
●南麂列島のヘリポート建設
昨年から中国は南麂列島でヘリポートの建設を始めた。南麂列島は中国本土の基地と比較して約50キロ尖閣諸島に近く、尖閣諸島まで約300キロとなる。僅か50キロ尖閣諸島に近いことがどれくらいの意味があるのか、と思う人が多いかもしれない。しかし、人民解放軍が保有するZ9WやZ19といった攻撃ヘリの航続距離は約700キロなので、尖閣諸島までの距離が片道約300キロに短縮されれば、南麂列島から飛び立ち尖閣諸島で一作戦して帰還することが十分可能になる。それを示すかのように、人民解放軍は最近、多数の攻撃ヘリを動員しての演習を実施している。
最近は中国が南シナ海で建設中の人工島に目が向きがちであるが、東シナ海も主権下に置こうとする軍事的な準備が着々と進んでいることを我々は認識しなければなるまい。(了)