南シナ海パラセル(西沙)諸島のウッディ―(永興)島に、中国人民解放軍が高性能の地対空ミサイルHQ9(紅旗9)を配備した。先月、米国に出張した際、米国の専門家は人民解放軍が昨年10月に第4世代戦闘機であるJ11(殲11)を同島に飛来させたと言っていた。
習近平中国国家主席は昨年9月にオバマ米大統領と会談した際、「(南シナ海の)軍事化を追求する意図はない」と表明していた。しかし、戦闘機の飛来や地対空ミサイルの配備が軍事化でなければ、どのような状態を軍事化と呼ぶのか? 南シナ海にも東シナ海と同様、中国が防空識別圏(ADIZ)を設定するのは時間の問題かもしれない。
2013年11月に東シナ海に設定された中国のADIZは他国のADIZと異なり、圏内に進入する外国航空機の飛行計画を中国当局に提出する義務を負わせ、当初、指示に従わない航空機には「防御的緊急措置を取る」ことになっていた。
●実効支配確立へ前進
1992年に制定された中国の領海法第2条には、「中華人民共和国の陸地領土は(略)東沙群島、西沙群島、中沙群島、南沙群島および中華人民共和国に所属する一切の島嶼を包含する」とある。通常、領土の上空である領空に他国の航空機が無断で侵入するのを防ぐために、領空の外側にADIZが設定されるが、侵入機を退去させるための実効措置能力が伴わなければ、設定しても有名無実化する。
しかし、戦闘機や地対空ミサイル、それに伴うレーダー施設が配備されれば、侵入機に対して退去を強要する措置を取ることができる。それは、これまで点から線に拡大しつつあった中国の南シナ海実効支配を、面にも立体的にも拡大することにつながる。
南シナ海にADIZが設定されれば東シナ海のADIZと相まって、中国は日本、台湾、フィリピンを結ぶ第一列島線内の実効支配に向けて、確実な段階を踏むことができる。しかも、有効な対抗策が取れていないオバマ政権の任期中に既成事実をつくることができれば、将来の支配確立への布石になる。
人民解放軍としては自分たちの権益が増大し地位が向上するので、ADIZ設定には積極的であろう。人民解放軍に共産党のコントロールが完全に効いているのか疑わしい事象は過去に何度も起きているが、今回のHQ9配備もその一つと言えそうだ。
●さらなる国際的孤立も
南シナ海スプラトリー(南沙)諸島の埋め立てにより、中国は米国のほか東南アジア諸国連合(ASEAN)の主要国を敵に回した。また、北朝鮮の核実験や弾道ミサイル発射を抑えられなかった中国への失望から、これまで中国に擦り寄っていた韓国も反旗を翻し、台湾の総統選挙では中国と距離を置く民進党が圧勝した。こうした四面楚歌の時にあえてADIZを設定すれば、中国はさらなる国際的な孤立を招くだろう。
エネルギー輸入の約8割を南シナ海経由の海上交通路に依存している日本にとって、この地域で中国の実効支配が進行することは由々しき事態である。従って、これまで以上に国益を共有できる国々と協力し、中国の覇権拡大を阻止していかなければなるまい。(了)