まさか戦前の日独同盟に郷愁を抱いているのでもなかろうが、日本人には、ドイツに好意的な人が少なくない。個人が親近感を抱くのは勝手だが、国家間の交際は冷静に願いたい。とかく問題を起こす政治家だが、トランプ米大統領は7月の北大西洋条約機構(NATO)首脳会議でドイツの防衛負担が少なすぎると大々的に批判し、同時にNATOの潜在敵国でもあるロシアからドイツがエネルギー資源を買い入れるなど経済関係を強化しているのはNATOのためにならぬと痛棒を加えた。
●エネルギーの対ロ依存は危ない
とくに槍玉に挙げられたのは、ロシアの天然ガスをバルト海の海底を通してドイツに運ぶ「ノルト・ストリーム2」計画だ。完成すると、ロシアの欧州向け天然ガスの80%はドイツに流れ、そこをハブ基地にして、西欧全体がエネルギー供給を仰ぐ時代が到来する。防衛をただ乗りしたうえで敵に塩を送るとは何事か、ドイツは「ロシアの人質」になっている、とのトランプ大統領の指摘は正鵠を射ていると思う。
エネルギーが戦略物資であることは言うまでもないが、いわゆる西側民主主義国とロシアの体制は基本的に異なる。形式は民主主義体制でも、プーチン大統領の一存で物事が決まる国は有事の際に何をするか分からない。突如として供給を停止されたときに、NATOは機能しなくなる恐れがある。ロシアとドイツの中間にあって、現在天然ガスや石油の通過料を取っている東欧諸国の運命も、ロシアに決められてしまう。ノルト・ストリーム2の運営会社の会長にはドイツの前首相ゲアハルト・シュレーダー氏が就任しているから、ドイツの責任はさらに重い。
●米ロの角逐
自衛のためもあっただろう。バルト海、アドリア海、黒海に囲まれたように存在する東欧12カ国は、2年前に「3海イニシアチブ」を創設した。昨年6月にワルシャワで開かれた首脳会議に乗り込んだトランプ大統領は、米国の天然ガスを適切な価格で提供すると約束した。ポーランドはロシアとの契約更新を断り、新たに米国産を導入するターミナルを建設した。どのような相関関係があるのか分からないが、米ロは首脳会談再開を決めながら、水面下では激しい角逐を演じている。
日清戦争後の三国干渉の当事国、第1次大戦の相手国、第2次大戦の同盟国など、ドイツとの関わりには苦い思い出が多い。国家関係はときに非情である。(了)