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冨山泰

【第532回・特別版】日米にAIIB参加を促す提言に異議あり

冨山泰 / 2018.07.30 (月)


国基研企画委員兼研究員 冨山泰

 

 世界は今、自由、民主主義、人権、市場経済、ルールに基づく国際秩序を重視する価値観を持つ陣営と、そうした価値観を持たない強権国家の陣営がしのぎを削っている。日本、米国、オーストラリア、インドの4カ国はインド太平洋地域で前者の核を形成するが、その4カ国の有力研究機関が最近、後者の代表格である中国の主導で設立されたアジアインフラ投資銀行(AIIB)への日米両国の参加を促す政策提言を共同で発表したのには、あぜんとした。

 ●「一帯一路」と関係を切れない銀行
 AIIBの根本的な問題点として忘れてならないのは、「中華民族の偉大なる復興」を目指す習近平中国国家主席の現代版シルクロード経済圏構想「一帯一路」とAIIBが切っても切れない関係にあることだ。一帯一路とAIIBは、どちらも習主席が2013年に構想を打ち上げた双子のプロジェクトである。公表された両者の目的は同じで、地域のインフラ整備と開発だ。AIIBの存在理由は一帯一路の実現にあるとさえ言えるだろう。
 実際には、一帯一路におけるAIIBの役割は今のところ限定的だ。昨年5月の一帯一路国際会議(北京)における習主席の演説によると、一帯一路参加国に対するAIIBの融資額は累計で17億ドルにとどまった。中国が単独で設立した「シルクロード基金」からの出資は40億ドルだった。一帯一路関連の融資は主として、中国の政策金融を担う政策性銀行と呼ばれる国有銀行や、商業銀行が行っている。中国政府系ニュースサイトの中国網(チャイナネット)によると、共に政策性銀行である国家開発銀行と輸出入銀行による一帯一路関連の融資累計は2016年末現在、それぞれ1600億ドル超と1000億ドル超で、けた違いに多かった。
 しかし、一帯一路は、兆ドル単位の気の遠くなる経費がかかることが想定される巨大プロジェクトだ。中国だけの資金で足りるはずはなく、既に80カ国以上が加盟し、加盟国数ではアジア開発銀行(ADB)の67カ国を上回る規模に成長したAIIBが、将来的に一帯一路を推進する一翼を担うことは、銀行の生みの親や設立目的から見てまず間違いない。

 ●中国の隠された野望
 習主席は一帯一路が全参加国の「ウィン・ウィン」(共存共栄)の経済発展をもたらすと強調する。だが、米国のシンクタンク「高等防衛研究センター」(C4ADS)は4月に公表した報告書「隠された野望」(Harbored Ambition)で、インド太平洋地域における中国のこれまでの港湾投資が、中国の政治的影響力の発生、軍事的プレゼンスのひそかな拡大、中国に有利な戦略環境の創設に役立っていると分析し、一帯一路の実態を暴いた。
 であれば、AIIBへの参加を拒否している日本と米国に参加の検討を求める日米豪印4カ国研究機関の提言は、強権国家中国の覇権確立の「野望」を助けかねない。笹川平和財団、オーストラリア国立大学、ビベカナンダ国際財団(インド)、笹川平和財団USAによる今回の共同提言は、一帯一路にきちんとした警戒を表明しているだけに、AIIBの戦略的意味合いに無頓着なように見えるのは残念である。(了)