インド太平洋の16カ国で構成される東アジア地域包括的経済連携(RCEP)は、世界最大の貿易圏を生むはずだった。しかし、インドの離脱でその目標は崩れた。中国がRCEPの主導権を握るのは、今やほぼ確実に見える。
インドのRCEP離脱の主な要因は中国である。米ハーバード大学のグレアム・アリソン教授は中国を「世界で最も保護主義的かつ重商主義的で、捕食性の強い経済大国」と呼ぶ。インド経済が減速しつつある時に、RCEPは中国製品流入の歯止めを解くことでインドの諸問題を悪化しかねない。
●5年で倍増した対印黒字
中国はインドの法規を悪用して大規模なダンピングを行う一方、中国経済の全分野からインド企業を締め出している。その中には年商1810億ドルのIT(情報技術)産業が含まれる。中国はまた、インドの農産物や医薬品の輸入を妨げる規制の撤廃にも消極的だ。
インドでモディ首相が就任した2014年以降、中国の対印貿易黒字は2倍以上増えて年額600億ドル超となった。中国の不公正な貿易慣行はインドの製造業と競争力を組織的に弱体化し、その結果としてモディ首相の「メーク・イン・インディア」(インドでモノづくり)構想はまだ本格的にスタートできない。実のところ、中国の対印貿易黒字はインドの国防費を大幅に上回っており、インドは中国の敵対行動の金銭的な面倒を見ているようなものだ。
インドは他のRCEP参加15カ国のうち12カ国と自由貿易協定(FTA)を持ち、オーストラリアとはFTAの交渉中だ。インドのRCEP加入で最も利益を受けるのは中国だ。「裏口」を通って実質的に中印FTAを結ぶことになるからである。
インドにとって、ヒマラヤの国境で中国と接することと、裏口経由で中国を中に入れることは別問題である。
2018年4月から、中国の習近平国家主席はモディ首相と2度にわたり「非公式」の首脳会談を開いた。これらの会談では、中印両国を隔てる政治、貿易、国境の各問題で進展はほとんどなかった。
インド南東部沿岸のマハバリプラム(旧ママラプラム)で今年10月に行われた第2回首脳会談で、習主席は急増する対印貿易黒字を守ろうとして、インドをRCEPへ誘い込むことに努めた。インド外務次官によると、モディ首相は取り決めが公平かつ公正なものでなければならないとの立場を明確に示し、習主席はRCEPをめぐるインドの懸念を十分に議論することを保証した。しかし、この会談から数週間後、インドはRCEPからの離脱を表明した。
●懸念解決ならインド復帰も
インド抜きのRCEPは中国主導の貿易圏になることを意味するので、日本はインドにRCEP復帰を働き掛けるだろう。インドの懸念を解決する妥協が成立すれば、復帰は可能性としてはあり得る。
インドは自力でもっと競争力を付ける必要がある。輸入障壁をいくら高めても中国の経済力からインドを守ることはできないからだ。しかし、中国のダンピングなど強欲な貿易慣行を制限せずに、インドの競争力を付けることはできない。(了)