公益財団法人 国家基本問題研究所
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今週の直言

奈良林直

【第671回・特別版】川内原発の運転停止を再考せよ

奈良林直 / 2020.04.06 (月)


国基研理事・東京工業大学特任教授 奈良林 直

 

 九州電力川内原子力発電所(鹿児島県)の1号機が3月16日に運転を停止した。航空機によるテロを想定した特定重大事故対処施設(特重施設)の完成期限が3月で切れてしまい、運転停止命令が出される前に、自主的な運転停止に追い込まれた。2号機も5月26日に停止する。
 新型コロナウイルスの感染拡大で九州経済が落ち込んでいる中、原発の運転停止で経済活動は更に深刻な打撃を受けるとして、九州経済界有志が署名活動を始め、一部報道によると既に3千人の署名が集まった。

 ●航空機テロ防止には障害物設置が有効
 特重施設は、ハイジャックされた航空機が原発に衝突しても、放射性物質の放出を抑えるための施設。原子力規制委員会は、東京電力福島第1原発の事故を踏まえた新規制基準に原発本体を適合させるための工事計画認可から5年以内に特重施設を完成させることを、原発の運転継続の条件としている。
 国家基本問題研究所は昨年12月4日付で政策提言「日本に原子力発電を取り戻せ」をまとめ、国会議員及びマスコミ向けに発表した。この中に「特重施設の工事遅延を理由にした運転停止は回避せよ」との項目を盛り込み、航空機の意図的な衝突に対する強力な抑止策として、ポール、ワイヤフェンス、阻塞気球(気球と地面をワイヤでつなぎ、航空機が気球の下を通れなくするもの)など、航空機障害物を原発周辺に設置することを呼び掛けた。
 しかし、電力会社から、航空機障害物の設置の動きが見られない。その理由は不明であったが、動画が公開される原発の再稼働審査会合の前に、密室で拷問のような書類審査が行われているとの複数の情報提供があった。「言うことを聞かないと審査を後回しにする」という脅しが多数あると言うのだ。
 原子力規制委員会が発足した2013年4月30日付の北海道新聞のインタビュー記事で、菅直人元首相は「トントントンと10基も20基も再稼働するなんてあり得ない。何となれば、原子力安全保安院を潰して原子力規制委員会を作ったからだ」と言っている。つまり現在の規制委員会に菅氏の「脱原発のDNA」がしっかりと埋め込まれ、それがウイルスのように、理にかなった規制をできなくしているのだ。

 ●コロナ危機はエネルギー安保危機
 3月末、米空母「セオドア・ルーズベルト」の艦内で新型コロナウイルスの感染が拡大し、乗員2700人がグアムで隔離された。米軍の海外展開能力の一翼を担う空母が機能不全に陥っている。中東はじめ世界各地から原油や天然ガス、石炭をピストン輸送している我が国のタンカーも、いつまで運航を続けられるか分からない。運航停止の事態になれば、我が国の火力発電所は止まる。病院の機能も停止する。原発の再稼働には準備の時間がかかる。再稼働した原発の運転停止を回避し、後続の再稼働審査を急ぐ必要がある。(了)