公益財団法人 国家基本問題研究所
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今週の直言

山田吉彦

【第884回】日本の主権を行動で示す尖閣海洋調査

山田吉彦 / 2022.02.07 (月)


国基研理事・東海大学教授 山田吉彦

 

 1月31日、尖閣諸島を行政区域内に持つ沖縄県石垣市は、尖閣海域の海洋調査を実施した。この海域での海洋調査は、東京都が2012年に実施して以来である。
 当時、石原慎太郎都知事は、東京都が尖閣諸島を購入して、商船や漁船の安全を守る通信施設や灯台を建設し、国際的な海洋環境研究所を設置することを計画した。しかし、民主党政権は都の購入を嫌い、計画性の無いまま尖閣諸島を国有化した。以来、石垣市の行政職員すら島への上陸を禁じられ、周辺海域に近づくことも認められていない。
 自公政権も継承したこの政策は、中国との友好関係に配慮し過ぎで、領土主権を有する日本の立場を弱め、日本の安全保障を脅かすと非難されている。

 ●海保の確約を得た航行の安全
 政府は尖閣諸島が日米安保条約の適用範囲内であることを米国と確認しているが、それは日本の施政下にあることが前提である。現在の尖閣諸島は無人で、島の活用計画もない。外国の複数の外交官やジャーナリストに聞いたところ、これでは施政下にあると判断し難いとの意見が大半だった。速やかに島の管理・活用政策を打ち出す必要がある。
 現在、国際的な海洋管理の主要テーマに海洋環境保全がある。海洋が地球環境、海洋生態系に与える影響は大きい。海洋環境保全策の実施を柱に、尖閣諸島が日本の施政下にあると示すことができる。
 そこで石垣市は、日本の主権と石垣市の行政権を明確に示す施策として、海洋環境保全を前面に打ち出すことにした。国連が選んだ「持続可能な開発目標」(SDGs)の14番目「豊かな海を守ろう」に対応し、貴重な生態系や地元漁民の生活の基盤となる漁場の調査を進める。石垣市は東海大学に委託し、国際航行の資格を持ち尖閣への航海に法的制約の無い同大学の海洋調査訓練船「望星丸」を傭船した。
 今回の調査にあたり、海上保安庁と海上自衛隊には事前に航海計画を説明した。海上保安庁からは「石垣市が行う公的な調査であり、法的に航行資格を持つ船舶を利用するのであれば、制約する理由もなく、航行の安全は海上保安庁が守る」との確約を得た。
 尖閣諸島海域には中国海警局の船2隻が姿を現したが、海上保安庁の巡視船に阻まれ、調査船に近づくこともできなかった。
 
 ●中国漁民の上陸阻止へ法整備が急務
 尖閣諸島海域で、中国海警船に対する我が国の警備体制は盤石である。しかし、今後、海上民兵と呼ばれる漁民を乗せた小型漁船が大量に押し寄せた場合、上陸と占領を阻むことは難しいだろう。陸地における警備・防衛体制を整える必要があるが、国内法は不備が多く、法整備を急がなければならない。
 今回の調査後、松野博一官房長官は「地方公共団体や民間機関の活動一つ一つについて、政府としてのコメントは差し控えたい」と述べた。この発言は、石垣市の活動を容認したと受け止める。今後は、島の陸部での環境保全や慰霊等の公共活動の実施を目指すとともに、政府自ら施政下にあることを行動で示す政策を実施するよう求めていきたい。(了)
 
 

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櫻井よしこ 国基研理事長
山田吉彦 国基研理事・東海大学教授