公益財団法人 国家基本問題研究所
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今週の直言

十市勉

【第946回】総合的な国家エネルギー戦略の再構築を

十市勉 / 2022.07.25 (月)


日本エネルギー経済研究所客員研究員 十市勉

 

 世界は、ロシアによるウクライナ侵略を契機に、1970年代の石油ショック以来の深刻なエネルギー危機に直面している。燃料や食糧価格の高騰も相まって、約40年ぶりのインフレの加速と景気後退の瀬戸際に立たされている。
 欧州連合(EU)は、先進7カ国(G7)と協調して対ロ制裁の一環として、ロシア産石油の輸入を年末までに9割削減することを決めたが、天然ガスは禁輸を見送っている。代替源の確保には、パイプラインや液化天然ガス(LNG)受け入れ基地の建設が必要で、数年以上かかるからだ。逆にロシアは、ドイツ向けのパイプラインの補修・点検を口実に天然ガス供給を大幅に削減し、EUに揺さぶりをかけている。

 ●変化する世界の需給関係
 ロシアが、石油輸出ではサウジアラビアと並ぶツートップ、天然ガスでは世界最大の輸出国であるため、世界的な石油および天然ガス・LNG危機の様相を呈している。欧州では、脱炭素化を目指す2015年の「パリ協定」を契機に、化石燃料は悪、再生可能エネルギーは善とみなす二元論的な風潮が広がり、また米国では環境を重視するバイデン政権の誕生でシェールオイルの開発にブレーキがかかった。
 その影響もあり、石油メジャーは上流投資(探鉱・開発・生産段階への投資)の大幅削減に追い込まれ、サウジやロシアなど専制主義的な資源国が市場支配力を強めている。また世界の石油消費の面では、中国やインド、東南アジア諸国連合(ASEAN)など経済協力開発機構(OECD)非加盟国が過半を占めており、対ロ制裁の抜け道になっている。
 ウクライナ問題を巡って、西側民主主義国家と中ロなど専制主義国家の対立が一層鮮明になる中、多くの新興国は国益優先の立場をとっている。例えば、中国やインドなどは、国際価格より30~40ドルも安く入手できるロシア産原油の輸入を急増させている。また電力不足に苦しむインド、イラン、トルコ、エジプトなどはロシア製原子炉を稼働中か建設中で、国連総会決議ではロシア寄りの姿勢を見せている。さらにサウジは、米国の強い追加増産の要請に消極的な姿勢を見せる一方、ロシアとは協調減産による高価格政策をとり、最大の原油輸出先である中国とは関係の強化を図っている。

 ●東日本の原発再稼働が急務
 現在世界は、地球温暖化による気候変動の危機、力による一方的な現状変更の動き、半導体や稀少資源の供給網の不安定化、化石燃料の供給不安など、相互に関連する地球、国家、経済、エネルギーの安全保障の脅威に直面している。
 このような中、日本は電力自由化と太陽光など再エネの導入が進む一方で原子力発電所の再稼働が大幅に遅れ、深刻な電力不足に陥っている。電力の安定供給は国家の存立に不可欠であり、政府は安全が確認された原発、とりわけ東日本に立地する原発の再稼働に全力を挙げるべきだ。世界情勢が激変する中、わが国は現在のエネルギー危機を奇貨として、長期的かつ総合的な国家エネルギー戦略を早急に再構築する必要がある。(了)