公益財団法人 国家基本問題研究所
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今週の直言

髙池勝彦

【第1179回】小泉氏の夫婦別姓案に反対する

髙池勝彦 / 2024.09.10 (火)


国基研副理事長・弁護士 髙池勝彦

 

 小泉進次郎氏は9月6日、次期首相を事実上決める自民党総裁選挙への出馬を宣言した中で、選択的夫婦別姓制度を導入する法案の提出を公約に掲げた。選択的夫婦別姓制度とは、夫婦が婚姻に際して同姓とするか別姓とするかを選択できるといふものである。小泉氏は、若さを売り物に、その公約も新鮮さを打ち出したいのであらうが、十分な議論もなくこのやうな重大な問題を持ち出すことに疑問がある。

 ●同姓は家族の一体性の象徴
 私が平成22(2010)年2月1日の第23回「今週の直言」で、当時の政権与党、民主党の夫婦別姓案に異議を唱えたやうに、夫婦別姓の主張には反対である。夫婦同姓は、夫婦および子を含む家族の一体性の象徴であり、夫婦別姓が認められると、子の姓が父または母と異なることになり、一体性が損なはれるからである。複数の子供がゐる場合、きょうだいの間で姓をどうするのか、複雑な問題を生ずる。
 別姓論者は、夫婦同姓であると、実際には夫の姓を名乗る例が圧倒的に多いので、結婚した女性が新しい姓を名乗らなければならず、不便であり、女性に対する差別であるといふ。また、世論も選択的別姓制度への賛成が半数を越えたともいふ。
 しかし、世論調査は、選択的別姓に好意的なマスコミの宣伝と、「選択的」の言葉から同姓を選択できるのであるから別姓の弊害が大きくはならないだらうといふことからの回答が多いと考へられ、決定的な理由とするべきではない。

 ●旧姓継続使用の法制化も選択肢
 実質的に女性に不利だとの点については、現在、婚姻前の姓を通称として認める制度が普及してきてゐることから、不利の程度も軽減されてきてゐる。不便さがまだ残つてゐるなら、それを改めれば済む話である。
 また、婚姻時に夫婦同姓となるが、婚姻と同時に、あるいは婚姻の後に、姓を変えた側が旧姓を名乗りたいと届け出れば、名乗ることを法的に認める制度にすることも考へられる。これを婚前氏(姓)続称制度といふ。この制度によれば、家族としての姓と個人のアイデンティティーとしての旧姓の両方を法的に使ひ続けることができる。この制度なら、女性に対する差別や不都合はまつたくなくなる。
 私は、将来この制度を取り入れるべきであると考へるが、小泉氏の提案は、以上のやうな議論をまつたく考慮せず、一挙に夫婦別姓制度を導入しようとするもので、浅慮といふしかない。(了)