公益財団法人 国家基本問題研究所
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今週の直言

【第118回】日米同盟関係は重要だ。しかし…

梅原克彦 / 2011.12.05 (月)


元経済産業省通商交渉官・前仙台市長 梅原克彦

この1、2か月、私はいろいろな方に「梅原さんは以前、経済産業省で自由貿易協定(FTA)や経済連携協定(EPA)の交渉を担当していたのでしょう? それにワシントンの日本大使館にも勤務していたわけだし、普段から中国に対して毅然とした外交を主張し、日米関係を重視する立場からして、当然、環太平洋経済連携協定(TPP)推進派ですよね」と聞かれる。

「いやー、必ずしもそうじゃないですよ」と、私は歯切れ悪く答えた後、その人に語りかける。

構造協議で崩れた日本の国柄
「20年前の日米構造協議の時、私の同僚、上司を含めて、霞が関の多くの人たちが『米国側の要求を受け入れれば、日本経済の旧態依然たる様々な問題が改善されて、きっと日本経済や日本社会の将来にプラスになる』と断言していました。もちろん、幹部の中には『いくら安全保障の面で世話になってきたとはいえ、ここまで米国に内政干渉されるのはたまったもんじゃない』と憤慨している人もいましたけど…」

そして最後に、こちらから、やんわりと質問を浴びせる。

「一体、日米構造協議の結果、大店法(大規模小売店舗の規制に関する法律)が廃止されたり、独禁法、商法が改正されたりしたことが、日本の経済や地域社会全体にとって、本当にプラスになりましたかね?」

「自分は生まれ故郷(仙台)の市長を務めながら、東北の地方都市や、農村地帯を随分回ったけれども、駅前の『シャッター通り』だけじゃなくて、ウチの親戚も含めて、地方社会で真面目に地道に暮らしている人たちの生活の全てというか、日本人の心の拠り所というか、大げさかもしれないけれど日本の国柄まで、自由競争、市場原理、構造改革の大合唱を聞かされている間に、何か根底から崩れていったような気がするんですよ。何も全部を日米構造協議のせいにするつもりもないですがね」

中国への対抗は防衛努力で
最近のオバマ大統領の豪州ダーウィンへの米海兵隊の派遣宣言、クリントン国務長官のミャンマー訪問など、米国の太平洋・インド洋地域に対するコミットメントの復活はどうやら本物のようだ。

日本は今、鳩山由紀夫元首相によってめちゃめちゃにされかけた日米同盟関係を再構築しながら、中国の膨張と覇権主義に対抗するための太平洋・インド洋海洋国家間の政治的、軍事的連携を急がなければならない。

私はこの側面におけるTPPの効用を決して否定するものではないが、本来それらのことは、普天間基地問題の解決を筆頭に、日本の防衛力強化、集団的自衛権の行使容認、憲法改正といった「本筋」のところでの日本の努力を通じて達成されるべきものだ。投資、農業の問題など、紙数の関係でここでは触れないが、TPPは大事な日本の国柄まで失いかねないリスクが大きいのだ。

とりわけ、国のリーダーとしての基礎的素養や国家観を欠き、日本の国を愛していないような政治家が中枢の多くを占める民主党を中心とする政権には、とても交渉は任せられない。しかし、間もなく交渉が始まる…。(了)

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第118回:日米同盟関係は重要だ。しかし…(梅原克彦)