国基研副理事長 田久保忠衛
弱腰外交、弱腰外交と騒ぎ立てるのは気が引けるが、それにしても12月18日の野田佳彦首相と韓国の李明博大統領との会談では、慰安婦問題で押しまくられた印象を受ける。韓国側は「誠意ある措置がなければ第2、第3の(慰安婦)像が建つ」と述べたそうだ。
恫喝をピシャリはね返してこなかった自民党政権時代と同じく、たたかれ放題の「サンドバッグ」に甘んじて、世界の激流をどうして乗り越えられるか。
訪中・訪印で何を目指す?
首相は25、26の両日に訪中して中国の胡錦濤国家主席と会い、28日にはニューデリーでインドのシン首相と会談する。国民に対して極度に口数の少ない首相であることは分かっているが、これほど慌ただしい日程をこなそうというのであれば、何らかの目的があるはずだと思う。
「中国包国網」などというおどろおどろしい表現は避けたいが、首相のハワイにおけるオバマ米大統領との会談はそれなりの意義があった。環太平洋経済連携協定(TPP)の「交渉に向けて関係国との協議に入る」と述べなかったら、小躍りして喜んだのは中国の温家宝首相だったと考えられるからだ。
要するに、「平和的台頭」と称して法を守らず、貿易のルールも時に無視する中国に対して、「法治国家になれ」との大合唱が米国、日本、韓国、東南アジア諸国連合(ASEAN)、豪州、インドなどで沸き起こっているとの認識を正確に持っているのかどうか―との疑問が民主党には付きまとってきた。
分からぬ韓国の方向感覚
李明博大統領が慰安婦問題で異常なほど日本に強く当たる背景に国内の政治的事情があるにせよ、黄海上の韓国の排他的経済水域(EEZ)内で違反操業の中国漁船員が取り締まりに当たる韓国側係官を襲うといった度重なる事件を抱えながら、決着済みであるはずの慰安婦問題を日本に突きつけてくる韓国の方向感覚が分からない。
周辺諸国を軽く見るメンタリティーは中国と全く同じ。日韓両指導者は国際的大局観が欠如しているのではないか。
野田首相が北京とニューデリーでいかなる姿勢を取るべきかは明白だろう。日印間で友好関係をさらに盛り上げるのはもちろんだが、中国との関係は、こちら側に要求はあっても譲歩や弁解は一切あり得ない。
「私は友達の嫌がることはしません。国家と国家の関係も同じでしょう」と公言したのは自民党の福田康夫元首相だった。国際政治の場で国家と個人の違いを見失う錯乱は、政治家としては許されない。(了)
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第120回:野田首相のアジア外交を憂慮する(田久保忠衛)