公益財団法人 国家基本問題研究所
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今週の直言

西岡力

【第121回】金正恩政権は長続きしない

西岡力 / 2011.12.19 (月)


国基研企画委員・東京基督教大学教授 西岡力

北朝鮮の金正日(労働党総書記)が死んだ。後継者に指名されていた三男正恩の政権が安定的に成立するかどうかが当面の焦点だ。大胆に予測するなら、正恩政権は長続きしないと見る。金正日が正恩を後継に指名したのは、自分の死後に批判が起きるのを恐れてのことだ。

軍事優先路線を取って住民の15%を餓死させた結果、反感が拡大していることを金正日はよく知っていた。だからこそ、自分の路線を無条件で継承する正恩を後継に選んだのだ。

二つの反正恩勢力
反正恩勢力は二つある。第一は、中国式の改革開放路線を取って朝鮮半島北半部の一党独裁体制を守ろうとする労働党と軍の幹部らだ。北朝鮮から亡命した故黄長燁労働党書記は「党幹部のうち一人以外は改革開放路線が良いと思っているが、口に出すと殺されるから黙っている」と語っていた。毛沢東主席の死後、中国で「四人組」が逮捕され文化大革命が終了したのと同じような政変が起きる可能性がある。

第二の反正恩勢力は、1990年代半ば以降の配給停止状況の下、市場での商売を通じて生き残ってきた「市場勢力」だ。彼らは韓国が物質的に豊かであることを、口コミ、ラジオ、風船ビラ等を通じて知り、闇市で売買されている韓国ドラマのビデオで韓国へのあこがれを強めている。

社会統制が緩めば、住民の8割を占める市場勢力が商売の自由、協同農場の解体、住民生活の向上を求めて動き出すことになる。リビアやロシアで起きた住民による大規模な反政府デモが北朝鮮でも発生する可能性はある。

また、大量の住民が陸路韓国を目指したり、身内を殺した国家保衛部員を捜し出してリンチを加えたりする事態も起こり得る。そうした状況に対して韓国が主導的に働き掛けるならば、「自由統一」を求める北朝鮮内の大きな流れができるだろう。

拉致被害者救出へ米韓と対話を
米韓両国は急変事態に備える政治的、外交的、軍事的準備を進めている。中国も北朝鮮国境に軍を配置するとともに、改革開放路線を取る親中政権樹立のため様々な働き掛けを行っている。

中国の専門家らは最近、混乱が発生した場合に、国際法上の出兵の権利は相互防衛条約を結ぶ中国にしかないという言説を拡散していた。混乱する事態となった場合、米中両国の緊急課題は北朝鮮が保有する核兵器の確保だろう。

日本にとって絶対に譲れない拉致被害者の安全な救出を考えると、混乱発生時に被害者に危害が加えられる危険をまず考えなければならない。北進する米韓軍に日本政府の連絡官を同行させるとか、必要に応じて自衛隊輸送機を出すなどして、被害者救出作戦を成功させなければならない。

日本にとって最善のシナリオは、米韓同盟と日韓基本条約を維持する韓国による自由統一が実現し、中国の影響力拡大を防ぐことだ。現段階では、北朝鮮内部の動きに関する情報と、拉致被害者の現在の状況に関する情報を収集、分析するとともに、米韓両国との戦略的対話を行うことが不可欠だ。(了)

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第121回:金正恩政権は長続きしない(西岡力)