公益財団法人 国家基本問題研究所
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今週の直言

西岡力

【第122回】対北政策で拉致被害者救出を最優先せよ

西岡力 / 2011.12.26 (月)


国基研企画委員・東京基督教大学教授 西岡力

北朝鮮の独裁者金正日が死んでから今日で9日になる(北朝鮮が発表した17日死亡が正しいなら)。これまでのところ、三男の金正恩を筆頭葬儀委員とした諸行事は、順調に進んでいる。

特別放送で死亡を公表したこと、遺体をガラスケースに入れ公開したこと、死亡から11日後に永訣式(葬儀)、12日後に追悼大会を行うことなど、すべてが父の金日成死亡時と同じだ。

生前の指示通り?に服喪行事
金日成死亡時は、その直前に外交路線や経済政策などをめぐり金日成と金正日が対立していた。人民に餓死が出ていることを知った金日成が対外宥和外交と民生重視政策に舵を切ろうとしている途中だった。

金日成服喪行事では、当初発表された追悼大会が前日になって延期されたり、金正日の継母金聖愛が「未亡人」との肩書きで葬儀委員の名簿の上位に出てきたり、服喪期間が満3年も続くなど異常事態が相次いだが、これらは「親孝行」を装う金正日の政治宣伝の側面が強かった。

金正日の個人独裁体制は揺るぎなく、彼は父の側近を含む数万人を粛正する一方、人民への配給を止めて人口の15%に当たる350万人を餓死させながら核開発を続けた。

服喪行事が金日成死亡時を踏襲しているのは、2008年に脳卒中で倒れて自分の死期が遠くないことを自覚した金正日が、死後の進め方について決めていたからだろう。

新体制の安定度、1年は不明
現在の順調さは死んだ金正日の独裁権力の延長線上にあり、金正恩はまだ独裁権力を握ってはいない訳だ。権力は与えられるものでなく奪うものだ。金正日が築いた個人独裁体制は、金正日の死によって終わるしかない。

金正日自身もそのことを知っていたので、党代表者会を開いて個人独裁から一党独裁への移行の布石を打ったのだが、それも中途半端なまま終わっている。従って、金正恩体制が安定するかどうかは少なくとも1年くらいは分からない。

早期に金正恩支持を打ち出した中国は、水面下で路線転換を強く迫っているだろう。既に金正恩の訪中、すなわち「朝貢」を求めている。韓国では金正日への弔意を表する左派団体や政党が多数出てきて、北朝鮮を反国家団体と規定し称賛者を罰する国家保安法が完全に骨抜きにされ、保守派は危機感を高めている。

わが国では元外務官僚や学者らが口をそろえて一括解決方式で日朝国交正常化を目指せと語っているが、拉致被害者らの救出は国交正常化とは切り離して緊急になされるべきものだ。2002年の小泉首相(当時)訪朝で拉致が部分的に進展したのは、被害者の消息を出さないと国交正常化交渉に入らないという姿勢を貫いたからだ。国交正常化交渉開始前に被害者救出という原則を崩してはならない。(了)

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第122回:対北政策で拉致被害者救出を最優先せよ(西岡力)